お荷物令嬢と幸せな竜の子
「……な……」
「一人で生活するだけなら、今の私なら何とかやっていけるわ。それに、私がウィルに報酬を払えるだけの余裕はない」
「どうして」と続けられる間を奪い、畳み掛けるように言った。
「報酬って、何に対してですか。あんたの世間知らずに付き合うことですか。お人好しすぎて、あちこちで騙されまくるあんたを見張っとくことですか。そんなの……」
「お守りすべてよ。……もう、必要ないの。大体、いつかはそうしなきゃいけない。竜に会えて、思ったより早まっただけだわ」
だって、そう聞かれてしまったら。
我慢できずに、本当の理由を叫びたくなってしまう。
「とにかく、この子には手を出さないで」
「この子だ!? ……あんた、言われたそばから忘れてんじゃないでしょうね。見た目に騙されて他人に着いてった挙げ句、攫われそうになったのはつい最近でしょうが」
「お、覚えてるわよ! で、でも、もうウィルには関係ないじゃない。私が騙されようと、この竜さんを信じようと……」
「馬鹿と、のほほんもそれくらいにしてくれませんか。竜さんなんて可愛いもんだって保障、どこに……」
「だから……!! もうウィルに関係ないでしょう!? 」
私の腕を掴み、どうにか竜の子を引き剥がそうとするのを阻止する。
「……遮りましたね。まだ話は済んでな……」
「先に被せたのはそっちでしょう。この子の鱗を剥いだりなんて、絶対そんなことさせな……」
(……って、あれ? )
さっきまで、ぎゅっと胸に抱いていたと思ったのに、いつの間にかいない。
それどころか、ウィルに反撃しようと私の手も彼に掴みかかっていた。
(しまった。落っことした……!? )
石の上に叩きつけられたのではとヒヤリとしたけれど、どこにもいない。
そうだ、竜さんは飛べるんだから。
でも、一体どこへ――……。
「……なんだ、それだけ近寄って、キスもしないのか。つまらんな」
近くへ目を走らせて、誰かを素通りし、違和感を覚えて声がした方へ再び戻す。
「……え……」
岩の上で長い脚を組み、がっかりしたとばかりに言ったのは、どう見ても人間の男性だ。
さらりとした長髪、まるで王子様のような服装はこの薄暗い洞窟では不自然で。
それこそが、彼が何者なのかを証明している。
「改めてはじめまして、お嬢さん。私にも名前があったが、長いのと人間には発音が難しいからな。ステフでいい」
「は、はじめまして……。突然失礼なことをして、その」
「いや、いい。こちらも試したからな」
悪人でないか試された?
もしも、あのまま鱗を貰っていたらと思うとゾッとする。
「事情は何となく理解した。察しのとおり、実はこちらにも聞いてもらいたい話がある。引き受けてもらえるなら鱗はやってもいいし、そうだな。報酬というなら、私が出そう。もちろん、人間の通貨で」
「……ほら、きた。やめとけ、これ以上変なことに巻き込まれるつもりですか」
「……もしくは」
ウィルを無視し、彼との間に身を滑らせて竜さん――ステフは私に微笑みかけた。
「その、ミゲルという男との賭けの内容からすると、これでもいいのではないか? 人間の噂話では、こう続くのだろう」
――幸福の竜に見初められると、その娘の家に繁栄をもたらす……と。