お荷物令嬢と幸せな竜の子
(……で、いてくれて……? )
話の流れ上のことだろうとは思ったものの、何だか少し引っ掛かるものを感じて。
上向かされるまま見つめてしまって、慌てて目を逸らした。
「……あーあ。やっぱり、説明が先ですかね。俺としては、キスくらい先にしときたかったのに。長くなりますから、眠くなったら勝手に寝てください。その時は、俺も勝手にキスしてるかもしれませんけど」
「……この状況で寝ないわよ」
想いが通じて、好きな人の腕にいるのに。
ドキドキして、睡魔なんか訪れるわけがない。
なのに、ウィルは「どうだか」と笑って。
「それは、あんまり信じられません。……座って」
そうベッドへ誘うと、意識しすぎて小さくなって座る私を愛しそうに寄せて、語り始めた。
・・・
ウィルが父と初めて会ったのは、話からすると恐らく母が亡くなったすぐ後のこと。
その頃は確かに不在が多かったけれど、母と過ごした屋敷にいるのは辛かったのだと思う。
私ももう大人といっても差支えない歳で、ディアーナにもミゲルがいたから、寂しい以外の苦労はそれほどなかった。
「あの頃は、俺もまだ荒れてて。ひどい態度だったのに、なかなか諦めてくれなくてね。衣服もボロボロで、髪もまだ短かったから、すぐに普通の人間じゃないことはバレたはずですけど。……俺が何なのか……そんな、本人すらよく分からないことは、一度も聞かれませんでした」
そして、もしかしたら、ウィルのことを気に掛けていて――その結果、あの集落に辿り着いたのかもしれない。
「何か、没頭することが必要だったのかもしれませんね。家族差し置いて俺なんかに構うなんて、褒められたことじゃありませんが。でも、あんたの話は本当によく出ましたよ」
『あの子は、私のお姫様だよ』
『……? あんたの娘なら、元々お姫様だろ』
『うーん。そういうのじゃないんだなあ』
「……違うんだって。家柄とか、そんなんじゃなくて」
『大切だから、愛しいから。恥ずかしいのか、最近は嫌がられるけどね』
「ただ、あんたは俺の姫さんだった。あの人は、予知でもしてたんですかね」
そんな話を聞いたら、もうその呼び方を嫌がれなくなる。
事実、ウィルの声はあまりに甘くて、記憶のなかにあるお父様のそれとはもちろん全然違った。
「息子みたいに接してくれるのが申し訳なくて、あまり会わないようにしました。俺に会えば、いろいろと世話を焼いてくれたから。しばらくは、待ち合わせ場所みたいになってたとこに現れてたけど、来なくなって。やっと家族のもとに帰ったと思ったのに、忘れかけた頃になって」
『知ってるか? あの貴族様の噂』
『借金こさえて蒸発したって話だろ。そんな人には見えなかったけどな。まあ、よくある話だ』
「気になって近くをうろうろしてたら、そんな話が聞こえてきた。あの人に限って、そんなことあり得ない。最初こそ俺に金を使いすぎたのかと思いましたが、さすがに俺一人で落ちぶれるような家じゃない。お人好しが災いして、何かに巻き込まれたんだと思った」
「それで……」
それにしても、よくミゲルが雇ったものだ。
その頃には、既にミゲルは事の次第を把握していた可能性が高い。
ミゲルは悪人ではないけれど、そんな時期に突然現れた男を雇うほどの性善説は持ち合わせていないと思うのだけれど。
「坊っちゃんから誘われたんですよ。護衛なんて、何の為だか分からない職をわざわざ作って。ジェラルドは話してたんじゃないですかね。俺のことも」
――きっと、姫さんに興味を持つだろうことも。