お荷物令嬢と幸せな竜の子
金額が金額なのと、悩む間もなく追い出されたのもあり、お金の使い道については考えたこともなかった。
家を出てからは、忙しかったり仕事を覚えるのに必死で――自分の時間はウィルと過ごせて、それで楽しかったから。
「幸運と言えば、お前たちはよくここに辿り着いたものだ。竜探しそもそもが強運だが、ジェラルドの件がなくとも会ったのが私でよかったと思うぞ」
「ステフがいい人だから……? 」
「そうだ。人間と同じように、いい竜も悪い竜もいる」
自分で言ったくせになぜか目を丸め、ステフが優しく笑った。
「騙そうとしたり、支配下に置こうとしたり。中には喰らうものもいる。私が言えることではないが、気をつけてくれ」
(……そうよね)
私って、信じられないくらい幸運だ。
こんな行き当たりばったりの旅で、ステフに会えるなんて――……。
「それもなんか変な気がしませんか。いいように掌で転がされてる気がしてならないんですが」
「掌って……」
幸運ではなく、誰かの書いた筋書きを辿っているっていうこと?
私の頭を撫でようとしたステフの手を払い、ウィルが被せるように続ける。
「今のところは、坊っちゃんの。善意だと思ったんで、あんたには伝えませんでした」
ミゲルがこんなことをした理由。
父の借金の謎。
「百歩譲って、ちょくちょくここに来るとしましょう。でも、借金のことは忘れませんか。……ああ、もう。だから、ちょっとは悩めって」
「……まだ、何も言ってないけど」
一番早いのは、もちろんミゲルに教えてもらうことだけど、素直に教えてくれるかどうか。
何より、屋敷に戻るまでの道が不安だ。
「俺はこんなに譲歩してんのに」と文句は続くが、説き伏せようとする勢いはちっとも感じられない。
つくづく優しい人だ。
「そんなユリアーナを好きになったのだろう。ある程度は諦めるのだな。それはそうと、いつまでも宿暮らしは、いろいろと困るのではないか? 定期的にここに来てくれるのなら、住まいを用意するが」
「確かに、いろいろと不便だ。でも、ここは響くんじゃなかったか」
(……な、何の話……!! )
「子どももいるし、居座られても私も迷惑だ。それに、ここに居住しては、ジェラルドと同じことになりかねない。そうではなくて、村とここの間に家がある。使っていなかったからまずは掃除からになるが、家賃は浮くぞ。借金塗れの身にはいい……」
「……!! ぜひ……!! 」
「……こら」
つい、ウィルに預けていた身体を起こして前のめりになると、さも「馬鹿」というように私の頭を自分へと戻す。
「見てもないのに、タダに食いつかないでください。愛の巣がゴーストハウスもどきなんて、俺は嫌ですからね」
「……あ、あい……そ、それはその……そうよね」
二人の家……なのだ。
ウィルの言うことはもっともで、今までみたいに世間知らずのお姫様のお目付け役ではない。
恋人同士の家なら、やっぱり――質素でも素敵な家にしたい。
「失礼な。ジェラルドの件があって、私も猛省したのだ。次に助けてくれる人間が現れたら、もっと人間に快適な……家を用意しようと思っていたというのに。落ち着いたら声を掛けてくれ。なかったら知らん」
――蜜月はよそでやれ。
ステフの呆れ声が遠い。
私が素直になったことで、ウィルのスイッチが入ったのかそうじゃないのか――ともかく、ウィルの身体が傾いて、更に目を瞑ってしまえば。
ほんのひとときかもしれなくても、ただの恋人ができて浮かれている女でいられる。