お荷物令嬢と幸せな竜の子









不器用さや効率の悪さは、まだまだ改善点がたくさんあるとして。
とりあえず、失敗は減ってきた頃になっても、ウィルはたびたび様子を見に来てくれた。


「そんなに見張ってなくても……見てるだけって暇じゃない? 」

「手伝いませんよー、俺は。心配しなくても、そんな見てないんで大丈夫です。可愛い子見つけたら、そっち見てるんでお気になさらず」


別に、手伝ってほしいんじゃないけと。
まあ、本人がいいって言うならいいか。
こっちとしても、やっぱり知り合いが側にいるだけで心強いし。


「ま、姫さんも板についてきたんじゃないですか。問題は、良く言って生活費くらいにしかならないことですけど。で、あんた、先のこと考えてます? 」

「……う、それはその。とりあえず、ちょっとでも稼ぎながら、竜の居所について情報収集を……」


盛大に溜息を吐かれると思っていたのに、ふふっと優しく微笑まれ、どこか遠いところに視線を移されて余計に大ダメージを食らってしまう。


「わ、分かってるわよ。そんなことじゃ、ちっとも前に進めないってこと。でも、竜なんて滅多に人前に出てくるものでもないし。誰かの武勇伝だって、信憑性はほぼないわ。そんなの分かってるけど……」


他に、方法がない。
少しずつお金を貯めては移動して、竜の噂がある地域に向かって行くしか。
それでも、「幸福の竜」の噂に辿り着くかどうかすら怪しい。
ミゲルに言ったとおり、そんなの最初から分かっていたことだ。


「……ユリアーナ」

「……そうよね。そんないつになるか分からない話、あなたに付き合う道理はない。ミゲルがいくら払ってるか知らないけど……キリのいいところで、置いていってくれて構わないわ」


気の遠くなる話だ。
生きているうちに竜に会える人間が、果たしてどれだけいるのか。
借金返済するのとどちらが早いだろう。
普通に考えて、どっちも可能性としては限りなく低い。


「……まぁ、いつかは。ただ、俺が言いたいのはそうじゃないんですよ」

「え? 」


てっきり、見限られたと思ったのに。
無意識に落ちていた目線を上げれば、ウィルは垂れていない方の髪を掻き上げてその目を睨む。


「……もう、いいんじゃないですか。幸福の竜なんて、馬鹿げた賭け。ここか、どこかあんたの気に入った村で、それなりの暮らしをしたらいい。姫さんじゃなくなったあんたなら、どっかに物好きがいるかもしれない。そしたら、前みたいな贅沢はできなくても、いつかはもっと楽に楽しくやっていけるでしょ。……そういうのも、いいじゃないですか」


ウィルの言うことはもっともだ。
なのに、頷けない私を見て彼は続けた。


「あんたの作った借金じゃない。坊ちゃんもそれを分かってるから、こんなお遊びがてら追い出した。逆に言えば、逃げられることも想定内なんじゃないですか。だって、もうあんたを追いかけようもないんですから」

「……そうよね、でも」


正論。それに優しさ。
だから、反論に勢いがない。


「考えた方がいいですよ。……あんた、姫さんって呼ばれるの嫌がるじゃないですか。なのに、そこまでして屋敷に帰る必要、あるんですかね」


そんな私に被せるように言うと、ウィルは席を立った。
お姫様呼びを嫌がるくせにしがみついてて、苛つかせたのかもしれない。

もしかしたら、これまでもずっと。











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