あなたの心に寄り添いたい 〜この好きという気持ち〜

2人だけの花火の約束

「歩夢さ、鈴見さんのこと好きなの?」
ストレートに訊いてくる男友達の利月(りづき)に、俺は迷わず答えた。
「うん」
ここの階段には俺と利月以外、誰もいないから、聞かれてないはず。
「俺はちょっとタイプじゃないな。
問題児を好きにはなれない」
「問題児ってやめろよ。ホントに」
「そうか、そうか。お前の好きな人だもんな。悪かった」
そういうんじゃない、と反論したかった。
それに、さっき鈴見さんと話したときの誤解を解きたかった。
俺、後悔ばっかりだ。
「そういえば、知ってるか?七夕に、花火大会あるらしいぜ。問題児ちゃんでも誘ってくれば?」
「いい加減問題児ってやめろ…‼︎」
「あー、はいはい。でも、ガチであるから、花火大会。行ってこいよ」
花火大会、か。しかも七夕。いいかもしれない。
俺は次の休み時間、話しかけてみることにした。
「す、鈴見さん…」
鈴見さんは俺を見てギロリと睨むと、
「…何」
と消え入りそうな声で言ってくれた。
無視されなかったことだけが感謝だ。
「あ…ええと」
いきなり花火大会に誘うのはキモいよね。
「はやくして。何?」
「鈴見さんの怜々愛って名前、かわいいよね。女の子らしくて‼︎」
焦って早口で言ってしまった。
何言ってんだ、俺…。
「…私この名前、好きじゃない」
吐き捨てるように、でも少し切なそうに言った。
「ご、ごめん…」
俺がうつむいてそう言うと、いきなりバン、と机に両手をついて立ち上がった。
「あんたはいつも謝ってばっかり‼︎いきなり名前がかわいいとか言うし、何なの⁉︎もしかして…私のあのこと、知ってる?知っててそんなこと言うの⁉︎」
「あの、こと…?」
あのことってなんだろう。
鈴見さんは、本当に怒っているみたいだ。
「…知らないならいい」
鈴見さんが教室を出て行こうとしたのを、とっさに俺は呼び止めていた。
「花火、しよう」
「…は?」
言ったからには仕方ない。もう一回‼︎
「花火、しよう。線香花火とか買ってくるからさ。今日の…7時!学校の前集合ね。約束だから」
「…花火の、約束?」
つぶやく鈴見さんに、俺はうなずく。
「そう」
「……考えておく」
「約束だから!絶対来てね!」
振り返りはしなかったけど、聞こえていたはずだ。
< 4 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop