お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
2 兄と妹
お兄ちゃん……まさか? この男性がアデルの……!?
挨拶するために急いで立ち上がった。
「アデル様のお兄様でいらっしゃいますか? はじめまして。私は……」
「祖父母から手紙で聞いてるよ。アデルの新しいシッターさんだろう?」
優しい声で尋ねてくる。
「はい、そうです。フローネ・シュゼットと申します」
「俺はアドニス・ラインハルト。よろしく、フローネさん」
「い、いえ。私はシッターの身分です。どうぞ、フローネとお呼び下さい」
「そうか、なら俺の前でもアデルと呼んでいいよ。アデル、元気だったかい?」
アドニス様は身をかがめて、アデルに声をかけた。
「……」
するとアデルは俯き、立ち上がると私の後ろに隠れてしまう。
「え? アデル?」
一体どうしたと言うのだろう? 声をかけると、私の足にしがみついてきた。
すると、そんな様子を見たアドニス様が少しだけ寂しそうに笑った。
「ごめん、アデル。いきなり現れて驚かせてしまったようだね? それじゃ、俺は席を外すよ」
え? もう行ってしまうのだろうか? 折角2ヶ月ぶりの兄妹の再会だというのに。
「あ、あの」
背筋を伸ばし、立ち去ろうとするアドニス様に慌てて声をかけた。
「祖父母のところへ、挨拶に行ってくるよ。まだ顔を見せていないんでね。庭でアデルの楽しそうな笑い声が聞こえてきたから足を運んだんだよ」
良く見れば、先程アドニス様が立っていた場所にはキャリーケースが置かれていた。
「後ほど、ご挨拶に伺いますので」
「別に急がなくていいよ。それじゃ」
それだけ告げると、アドニス様は去って行った。
「……アデル。お兄様……行かれたわよ?」
未だに私の足にしがみついたままのアデルにそっと声をかけた。
「う、うん……」
アデルはそろそろと私の足から腕を離すと、アドニス様が去って行った方角をじっと見つめている。
そういえば、アデルは人見知りが激しいと言われていたことを思い出した。私に懐いているのでそのことをすっかり忘れてしまっていた。
「アデル。もしかして恥ずかしかったの?」
「……うん」
小さくコクリと頷くアデル。
「そうだったの。ならこれから少しずつ慣れていけばいいわ。私も一緒だから大丈夫よ。それじゃ、クッキーを頂きましょうか?」
「うん、食べる」
そっと小さな頭を撫でてあげると、アデルは嬉しそうに笑った――
――11時
遊び疲れてしまったのか、アデルは私の膝の上に頭を乗せて眠ってしまった。
「フフフ……本当に可愛いわ」
そっと頭をなでながら、ニコルの小さかった頃のことを思いだす。
「ニコル……元気にしているかしら」
勉強は頑張っているだろうか? ブラウン氏とはうまくいっているのだろうか?
既にニコルには、手紙で今はシュタイナー家で5歳の少女のシッターとして働いていることを説明している。
ただ万一のことを考えて、何処に住んでいるかは記さなかった。
それはシュタイナー夫妻に止められたからだ。
いくらバーデン家を追い出されたからと言っても、リリスからは勝手にいなくなるような真似はするなと釘を差されていた。
そのことをシュタイナー夫妻に説明すると、捜索願が出されている可能性もあるので行き先は書かないほうがいいと言われたのだ。
シュタイナー家は家名がそれほど有名ではないので、行き先を告げない限りはたどり着けないのではないだろうかという考えからだった。
そのとき、風が吹いて木の葉がザワザワと音を立てて揺れた。
「……風が出てきたわね。アデルも眠ったことだし、お部屋に戻ろうかしら」
アデルの頭をそっと、膝から下ろすと部屋に戻るために片付けを始めた……。
****
荷物の片付けが済んだ頃、誰かが近づいてくる気配を感じて振り向いた。
すると、こちらに向かってきているのはアドニス様だった。
「アデル。一緒に……あれ?」
アデルが敷布の上で気持ちよさ気に眠っている姿を目にしたアドニス様が首を傾げながら近づいてきた。
「申し訳ございません。遊び疲れて眠ってしまったようなのです」
立ち上がると、謝罪の言葉を述べた。
「別に謝る必要はないよ。祖父母と話が終わったから、アデルと過ごそうかと思って、ここへ来たのだけど……眠ってしまったなら仕方ないか」
その姿はとても残念そうだった。
「また目が覚めたら、お話できますよ」
「そうだね。それで今何をしていたんだい?」
「はい、片付けが終わったので部屋に戻るところでした」
バスケットを腕にかけて、眠っているアデルを抱き上げようとした時。
「俺がアデルを部屋に運んでもいいかな?」
「え? ええ。もちろんです」
するとアドニス様は嬉しそうに笑顔になると、眠っているアデルをそっと抱き上げ……じっと見つめる。
「……まだ、こんなに小さかったんだな……」
「ええ、でもすぐに大きくなっていきますよ」
「そうだな。それじゃ部屋に戻ろう」
「はい」
アドニス様はアデルを抱き上げて歩き始めたので、私もその後に続いた――
挨拶するために急いで立ち上がった。
「アデル様のお兄様でいらっしゃいますか? はじめまして。私は……」
「祖父母から手紙で聞いてるよ。アデルの新しいシッターさんだろう?」
優しい声で尋ねてくる。
「はい、そうです。フローネ・シュゼットと申します」
「俺はアドニス・ラインハルト。よろしく、フローネさん」
「い、いえ。私はシッターの身分です。どうぞ、フローネとお呼び下さい」
「そうか、なら俺の前でもアデルと呼んでいいよ。アデル、元気だったかい?」
アドニス様は身をかがめて、アデルに声をかけた。
「……」
するとアデルは俯き、立ち上がると私の後ろに隠れてしまう。
「え? アデル?」
一体どうしたと言うのだろう? 声をかけると、私の足にしがみついてきた。
すると、そんな様子を見たアドニス様が少しだけ寂しそうに笑った。
「ごめん、アデル。いきなり現れて驚かせてしまったようだね? それじゃ、俺は席を外すよ」
え? もう行ってしまうのだろうか? 折角2ヶ月ぶりの兄妹の再会だというのに。
「あ、あの」
背筋を伸ばし、立ち去ろうとするアドニス様に慌てて声をかけた。
「祖父母のところへ、挨拶に行ってくるよ。まだ顔を見せていないんでね。庭でアデルの楽しそうな笑い声が聞こえてきたから足を運んだんだよ」
良く見れば、先程アドニス様が立っていた場所にはキャリーケースが置かれていた。
「後ほど、ご挨拶に伺いますので」
「別に急がなくていいよ。それじゃ」
それだけ告げると、アドニス様は去って行った。
「……アデル。お兄様……行かれたわよ?」
未だに私の足にしがみついたままのアデルにそっと声をかけた。
「う、うん……」
アデルはそろそろと私の足から腕を離すと、アドニス様が去って行った方角をじっと見つめている。
そういえば、アデルは人見知りが激しいと言われていたことを思い出した。私に懐いているのでそのことをすっかり忘れてしまっていた。
「アデル。もしかして恥ずかしかったの?」
「……うん」
小さくコクリと頷くアデル。
「そうだったの。ならこれから少しずつ慣れていけばいいわ。私も一緒だから大丈夫よ。それじゃ、クッキーを頂きましょうか?」
「うん、食べる」
そっと小さな頭を撫でてあげると、アデルは嬉しそうに笑った――
――11時
遊び疲れてしまったのか、アデルは私の膝の上に頭を乗せて眠ってしまった。
「フフフ……本当に可愛いわ」
そっと頭をなでながら、ニコルの小さかった頃のことを思いだす。
「ニコル……元気にしているかしら」
勉強は頑張っているだろうか? ブラウン氏とはうまくいっているのだろうか?
既にニコルには、手紙で今はシュタイナー家で5歳の少女のシッターとして働いていることを説明している。
ただ万一のことを考えて、何処に住んでいるかは記さなかった。
それはシュタイナー夫妻に止められたからだ。
いくらバーデン家を追い出されたからと言っても、リリスからは勝手にいなくなるような真似はするなと釘を差されていた。
そのことをシュタイナー夫妻に説明すると、捜索願が出されている可能性もあるので行き先は書かないほうがいいと言われたのだ。
シュタイナー家は家名がそれほど有名ではないので、行き先を告げない限りはたどり着けないのではないだろうかという考えからだった。
そのとき、風が吹いて木の葉がザワザワと音を立てて揺れた。
「……風が出てきたわね。アデルも眠ったことだし、お部屋に戻ろうかしら」
アデルの頭をそっと、膝から下ろすと部屋に戻るために片付けを始めた……。
****
荷物の片付けが済んだ頃、誰かが近づいてくる気配を感じて振り向いた。
すると、こちらに向かってきているのはアドニス様だった。
「アデル。一緒に……あれ?」
アデルが敷布の上で気持ちよさ気に眠っている姿を目にしたアドニス様が首を傾げながら近づいてきた。
「申し訳ございません。遊び疲れて眠ってしまったようなのです」
立ち上がると、謝罪の言葉を述べた。
「別に謝る必要はないよ。祖父母と話が終わったから、アデルと過ごそうかと思って、ここへ来たのだけど……眠ってしまったなら仕方ないか」
その姿はとても残念そうだった。
「また目が覚めたら、お話できますよ」
「そうだね。それで今何をしていたんだい?」
「はい、片付けが終わったので部屋に戻るところでした」
バスケットを腕にかけて、眠っているアデルを抱き上げようとした時。
「俺がアデルを部屋に運んでもいいかな?」
「え? ええ。もちろんです」
するとアドニス様は嬉しそうに笑顔になると、眠っているアデルをそっと抱き上げ……じっと見つめる。
「……まだ、こんなに小さかったんだな……」
「ええ、でもすぐに大きくなっていきますよ」
「そうだな。それじゃ部屋に戻ろう」
「はい」
アドニス様はアデルを抱き上げて歩き始めたので、私もその後に続いた――