お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
11 使えない部屋
「こちらのお部屋がアデル様のお部屋になります」
メイドのマディーさんに連れられてやってきたアデルの部屋は壁紙やカーテン、ベッドカバーなどが全てピンク色で統一された可愛らしい子供部屋になっていた。
「ここが……私の部屋?」
アデルがマディーさんに尋ねる。
「はい、そうです。オリバー様が用意されたお部屋です。やはり小さな女の子はピンク色がいいだろうということで、この色に統一させていただきました」
「……そう、なんだ」
ポツリと呟くと、アデルは私を見上げる。
アデルが好きな色は水色だ。けれど、私の口からはそれを告げることなど出来るはずはなかった。
「アデル、後でアドニス様にお話しましょう?」
「うん、そうする」
私達の会話をどう捉えたのかは分からないが、マディーさんがアデルに声をかけた。
「お気に召して頂けたましたか? それで、シッターの方のお部屋ですが……突然の話でしたので、用意が出来ておりません。とりあえずは客室にご案内させていただきます」
「客室ですか……」
「はい、客室は別の棟になるので今から案内致します」
確かに突然の話では用意など出来るはずもないだろう。だけど……。
私は足元にいるアデルを見下ろした。
新しい場所に来たばかりで不安なのだろう、私のスカートの裾をアデルは無言で握りしめている。
「あの、アデルはまだここに来たばかりで不安そうです。今日のところは私もこのお部屋にいさせて頂けないでしょうか?」
「いえ、それは出来かねます。この棟にあるお部屋を使うことが出来るのは正式なラインハルト家の方々のみですから」
「え? でも……アデルはまだたったの5歳ですし、こんなに不安がっているのに駄目なのですか?」
「はい、それでもです。オリバー様にそう、命じられておりますから」
まさか断られるとは思わなかった。けれど、私は所詮ただのシッター。
高貴な人たちの住まう場所には、いてはいけないのだろう。
「……分かりました。アデル、部屋を案内してもらったらまた来るわね」
アデルの頭を撫でた時……。
「いや! お姉ちゃんと一緒にいる! 1人は嫌なの!」
アデルは叫んで、私にしがみついてきた。
「アデル……」
どうしよう、困ったことになってしまった。
「あ、あの……マディーさん。アデルがこんなにお願いしてくるので、今夜だけでもここに泊まっては駄目でしょうか? 別にベッドが無くても大丈夫です。私はこのソファの上で寝ても問題ありませんので」
図々しいお願いをしているのは分かっていたが、どうしてもアデルを一人ぼっちにはさせたくはなかった。
なのに、マディーさんは首を振る。
「いいえ、規則ですから。ラインハルト家意外の者は、この棟を使わせないように命じられているのです。もし破れば、私は罰を受けてしまいます」
「! そうですか……」
主の言うことは絶対なのだ。バーデン家で働いていた私には理解出来る。
「分かりました。……それなら客室にアデルを連れて行く分には構いませんか? 要は、私がここに滞在しなければアデルと一緒にいられるということですよね?」
イヤなシッターと思われてしまうかもしれない。
けれど、私はアデルの側を離れるわけにはいかないのだ。
「そ、それは……!」
すると、何故かマディーさんが慌てた様子を見せる。その様子を見た時、ピンときた。
もしかして先程の話は全て、私とアデルを引き離すための口実だったのではないだろうかと。
そして後に、何故私とアデルを引き離そうとしたか理由を知ることになる――
メイドのマディーさんに連れられてやってきたアデルの部屋は壁紙やカーテン、ベッドカバーなどが全てピンク色で統一された可愛らしい子供部屋になっていた。
「ここが……私の部屋?」
アデルがマディーさんに尋ねる。
「はい、そうです。オリバー様が用意されたお部屋です。やはり小さな女の子はピンク色がいいだろうということで、この色に統一させていただきました」
「……そう、なんだ」
ポツリと呟くと、アデルは私を見上げる。
アデルが好きな色は水色だ。けれど、私の口からはそれを告げることなど出来るはずはなかった。
「アデル、後でアドニス様にお話しましょう?」
「うん、そうする」
私達の会話をどう捉えたのかは分からないが、マディーさんがアデルに声をかけた。
「お気に召して頂けたましたか? それで、シッターの方のお部屋ですが……突然の話でしたので、用意が出来ておりません。とりあえずは客室にご案内させていただきます」
「客室ですか……」
「はい、客室は別の棟になるので今から案内致します」
確かに突然の話では用意など出来るはずもないだろう。だけど……。
私は足元にいるアデルを見下ろした。
新しい場所に来たばかりで不安なのだろう、私のスカートの裾をアデルは無言で握りしめている。
「あの、アデルはまだここに来たばかりで不安そうです。今日のところは私もこのお部屋にいさせて頂けないでしょうか?」
「いえ、それは出来かねます。この棟にあるお部屋を使うことが出来るのは正式なラインハルト家の方々のみですから」
「え? でも……アデルはまだたったの5歳ですし、こんなに不安がっているのに駄目なのですか?」
「はい、それでもです。オリバー様にそう、命じられておりますから」
まさか断られるとは思わなかった。けれど、私は所詮ただのシッター。
高貴な人たちの住まう場所には、いてはいけないのだろう。
「……分かりました。アデル、部屋を案内してもらったらまた来るわね」
アデルの頭を撫でた時……。
「いや! お姉ちゃんと一緒にいる! 1人は嫌なの!」
アデルは叫んで、私にしがみついてきた。
「アデル……」
どうしよう、困ったことになってしまった。
「あ、あの……マディーさん。アデルがこんなにお願いしてくるので、今夜だけでもここに泊まっては駄目でしょうか? 別にベッドが無くても大丈夫です。私はこのソファの上で寝ても問題ありませんので」
図々しいお願いをしているのは分かっていたが、どうしてもアデルを一人ぼっちにはさせたくはなかった。
なのに、マディーさんは首を振る。
「いいえ、規則ですから。ラインハルト家意外の者は、この棟を使わせないように命じられているのです。もし破れば、私は罰を受けてしまいます」
「! そうですか……」
主の言うことは絶対なのだ。バーデン家で働いていた私には理解出来る。
「分かりました。……それなら客室にアデルを連れて行く分には構いませんか? 要は、私がここに滞在しなければアデルと一緒にいられるということですよね?」
イヤなシッターと思われてしまうかもしれない。
けれど、私はアデルの側を離れるわけにはいかないのだ。
「そ、それは……!」
すると、何故かマディーさんが慌てた様子を見せる。その様子を見た時、ピンときた。
もしかして先程の話は全て、私とアデルを引き離すための口実だったのではないだろうかと。
そして後に、何故私とアデルを引き離そうとしたか理由を知ることになる――