お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
16 模様替えの朝
アドニス様とアデルの三人だけで食事をした翌朝――
「う〜ん……」
太陽の光で、私は自然と目が覚めた。すると目の前には見慣れない天井が見える。
「そうだったわ……私は、アデルとアドニス様と一緒に『ソルト』へ……」
私の隣では、アデルがスヤスヤと可愛い寝息を立てて眠っている。
「フフフ……本当に可愛いわ……」
昨夜、私はアデルに懇願されて同じベッドで寝ることになったのだ。
「今、何時かしら」
部屋の時計を見ると、時刻は6時少し前だった。
「そろそろ起きようかしら……」
ベッドから身体を起こそうとした時。
「ママぁ……」
アデルが寝ながら、私の方に手を伸ばしてきた。母親の夢でも見ているのだろう。
「アデル……」
アデルはまだ5歳。こんなにも母親を求めているのだ。
「大丈夫、アデルのそばにいるわ」
眠っているアデルを抱き寄せると、途端に笑みを浮かべて私の胸に顔を埋めてくる。
「ママ……大好き……」
「私もアデルが大好きよ」
私はシッター。
アデルの母親にはなれないけれど……せめて、夢の中だけでもアデルの母親役をしてあげたい。
「ずーっとアデルのそばにいるわ」
眠るアデルをそっと抱きしめた――
****
――7時半
「おはようございます、アデル様、フローネ様。お食事をお持ちしました!」
元気な声でサラが食事を運んできた。
「おはよう、サラ。ありがとう」
「……おはよう」
私に続き、アデルがサラに挨拶をした。
「お礼なんて、恐れ多いです。私はアデル様の専属メイドなのですから」
サラは笑顔で、テーブルの上に朝食を並べていく。
「……お兄ちゃんの分は?」
並べられた食事が二人分だけだということに気付いたアデルがサラに尋ねる。
「あ……申し訳ございません。アドニス様はお仕事があるので書斎で召し上がるそうでして……でも、夕食は皆様御一緒です」
サラが申し訳無さげに説明する。
「そうなんだ……」
「アデル、大丈夫よ。アドニス様は約束を守って下さるから」
「うん」
私の言葉にコクリと頷く。
「それで、本日はこちらのお部屋をアデル様の好きな水色に変えさせていただきます。9時になりましたら、お隣のお部屋で過ごして頂けますか?」
「このお部屋……水色になるの?」
アデルがサラの言葉に反応した。
「はい、そうです。ベネット様にその様にお伝えするように言われておりますので」
「良かったわね、アデル」
「うん」
アデルは笑顔を私に向ける。
「それではごゆっくりお食事をお召し上がり下さい。また後ほど食器を下げに参りますので」
「ありがとう」
私がお礼を述べると、サラは笑顔で部屋を去って行った。
「さて、それじゃ温かいうちに頂きましょう?」
「うん」
そして二人きりの食事が始まった。
****
アデルを膝の上に乗せて絵本を読んでいると。サラが食器を下げるために部屋に現れた。
「アデル様、フローネ様。お食事を下げに参りました」
「ありがとう、サラ。もうワゴンの上に食べ終えた食器を乗せておいたわ」
「え? そうだったのですか? ありがとうございます! フローネ様」
サラが目を見開いて私を見る。
「別に御礼を言われるほどではないから……それと、私のことはフローネ様と呼ばなくてもいいわよ? フローネでいいわ」
するとサラが首を振る。
「いいえ! そんな滅相もありません! アデル様のシッターである方を呼び捨てだなんて……」
「でも……」
もし私が「フローネ様」 と呼ばれていることをオリバー様やビアンカ様が知れば、嫌な気分になるだろう。
「そうだわ、だったらせめて『フローネさん』と呼んでもらえるかしら?」
「フローネさん……ですか? で、では……フローネさんと呼ばせていただいてもよろしいでしょうか?」
躊躇いがちに尋ねるサラ。
「ええ、勿論よ」
「あ、ありがとうございます。それでは早速ですが、アデル様とフローネさんはお隣の右のお部屋に移動して頂いてもよろしいでしょうか? これからお部屋の模様替えを行いますので」
サラの言葉にアデルの目が輝く。
「水色のお部屋になるの?」
「ええ、そうよ。きっとアデルの好きな水色で埋め尽くされるはずよ」
「本当? 嬉しいな〜。お姉ちゃん、早くお隣のお部屋に行こう?」
アデルが膝の上から降りると、手を引っ張ってくる。
「ええ、そうね。それじゃアデルの好きな絵本をたくさん持って行きましょう」
「うん」
「では、お部屋の模様替えが終わるまでお待ち下さい」
私とアデルはサラに見送られて、隣の部屋へ移動した。
「楽しみだな〜水色のお部屋」
「ええ、そうね」
ようやくアデルの顔に少しずつ笑顔が増えてきたことが嬉しかった。
しかし、後ほど……この部屋の模様替えが原因でトラブルが起こることになる――
「う〜ん……」
太陽の光で、私は自然と目が覚めた。すると目の前には見慣れない天井が見える。
「そうだったわ……私は、アデルとアドニス様と一緒に『ソルト』へ……」
私の隣では、アデルがスヤスヤと可愛い寝息を立てて眠っている。
「フフフ……本当に可愛いわ……」
昨夜、私はアデルに懇願されて同じベッドで寝ることになったのだ。
「今、何時かしら」
部屋の時計を見ると、時刻は6時少し前だった。
「そろそろ起きようかしら……」
ベッドから身体を起こそうとした時。
「ママぁ……」
アデルが寝ながら、私の方に手を伸ばしてきた。母親の夢でも見ているのだろう。
「アデル……」
アデルはまだ5歳。こんなにも母親を求めているのだ。
「大丈夫、アデルのそばにいるわ」
眠っているアデルを抱き寄せると、途端に笑みを浮かべて私の胸に顔を埋めてくる。
「ママ……大好き……」
「私もアデルが大好きよ」
私はシッター。
アデルの母親にはなれないけれど……せめて、夢の中だけでもアデルの母親役をしてあげたい。
「ずーっとアデルのそばにいるわ」
眠るアデルをそっと抱きしめた――
****
――7時半
「おはようございます、アデル様、フローネ様。お食事をお持ちしました!」
元気な声でサラが食事を運んできた。
「おはよう、サラ。ありがとう」
「……おはよう」
私に続き、アデルがサラに挨拶をした。
「お礼なんて、恐れ多いです。私はアデル様の専属メイドなのですから」
サラは笑顔で、テーブルの上に朝食を並べていく。
「……お兄ちゃんの分は?」
並べられた食事が二人分だけだということに気付いたアデルがサラに尋ねる。
「あ……申し訳ございません。アドニス様はお仕事があるので書斎で召し上がるそうでして……でも、夕食は皆様御一緒です」
サラが申し訳無さげに説明する。
「そうなんだ……」
「アデル、大丈夫よ。アドニス様は約束を守って下さるから」
「うん」
私の言葉にコクリと頷く。
「それで、本日はこちらのお部屋をアデル様の好きな水色に変えさせていただきます。9時になりましたら、お隣のお部屋で過ごして頂けますか?」
「このお部屋……水色になるの?」
アデルがサラの言葉に反応した。
「はい、そうです。ベネット様にその様にお伝えするように言われておりますので」
「良かったわね、アデル」
「うん」
アデルは笑顔を私に向ける。
「それではごゆっくりお食事をお召し上がり下さい。また後ほど食器を下げに参りますので」
「ありがとう」
私がお礼を述べると、サラは笑顔で部屋を去って行った。
「さて、それじゃ温かいうちに頂きましょう?」
「うん」
そして二人きりの食事が始まった。
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アデルを膝の上に乗せて絵本を読んでいると。サラが食器を下げるために部屋に現れた。
「アデル様、フローネ様。お食事を下げに参りました」
「ありがとう、サラ。もうワゴンの上に食べ終えた食器を乗せておいたわ」
「え? そうだったのですか? ありがとうございます! フローネ様」
サラが目を見開いて私を見る。
「別に御礼を言われるほどではないから……それと、私のことはフローネ様と呼ばなくてもいいわよ? フローネでいいわ」
するとサラが首を振る。
「いいえ! そんな滅相もありません! アデル様のシッターである方を呼び捨てだなんて……」
「でも……」
もし私が「フローネ様」 と呼ばれていることをオリバー様やビアンカ様が知れば、嫌な気分になるだろう。
「そうだわ、だったらせめて『フローネさん』と呼んでもらえるかしら?」
「フローネさん……ですか? で、では……フローネさんと呼ばせていただいてもよろしいでしょうか?」
躊躇いがちに尋ねるサラ。
「ええ、勿論よ」
「あ、ありがとうございます。それでは早速ですが、アデル様とフローネさんはお隣の右のお部屋に移動して頂いてもよろしいでしょうか? これからお部屋の模様替えを行いますので」
サラの言葉にアデルの目が輝く。
「水色のお部屋になるの?」
「ええ、そうよ。きっとアデルの好きな水色で埋め尽くされるはずよ」
「本当? 嬉しいな〜。お姉ちゃん、早くお隣のお部屋に行こう?」
アデルが膝の上から降りると、手を引っ張ってくる。
「ええ、そうね。それじゃアデルの好きな絵本をたくさん持って行きましょう」
「うん」
「では、お部屋の模様替えが終わるまでお待ち下さい」
私とアデルはサラに見送られて、隣の部屋へ移動した。
「楽しみだな〜水色のお部屋」
「ええ、そうね」
ようやくアデルの顔に少しずつ笑顔が増えてきたことが嬉しかった。
しかし、後ほど……この部屋の模様替えが原因でトラブルが起こることになる――