お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

7 予期せぬ迎え

 その後、私とアドニス様は繁華街の店を色々見て回った。

そして私の提案で、アデルの誕生プレゼントはウサギのぬいぐるみと犬のぬいぐるみを購入した。

「フローネはアデルに何をプレゼントするつもりだい?」

ぬいぐるみを抱えて歩くアドニス様が尋ねてきた。

「はい、今までは夜寝る前にアデルに子守唄を歌ってあげていたのですけど……流石に6歳になる女の子に子守唄はどうかなと思って、オルゴールをプレゼントしようかと思っていたんです」

「なるほど……オルゴールか。それはいいね」

笑顔で頷くアドニス様。

「ええ、ですがそのオルゴールの店がどこにあるか……」

そこまで話した時、再び視線を感じた。

「え?」

足を止めて、背後を振り返ってみるも怪しい人影は見当たらない。

「どうしたんだい? フローネ」

アドニス様が訝し気に首を傾げる。

「えっと…‥あの………何でもありません」

視線を感じているのは私だけなのに、アドニス様に心配かけさせるわけにはいかない。

「そうかい? さっきも少し感じたけど……もしかして人混みで疲れてしまったのかな? 何処かで休憩でもしよう」

「い、いえ。私なら大丈夫です。それよりも買い物の続きをしましょう」

「それなら慌てることはないよ。フローネのお陰で、すぐにプレゼントを買うことが出来たし……そうだ。丁度あそこにオープンカフェの喫茶店がある。そこで少休憩しよう」

アドニス様が指さした先には木製デッキに設置された丸テーブルとイスが置かれた喫茶店があった。

「あそこで休憩ですか……?」

「そうだよ、行こう」

「あ、ありがとうございます……」

こんなみすぼらしい姿の私を誘ってくれているのだから、断れるはずは無かった。
こうして私たちは喫茶店へ足を向けた――



****


 二人で向かい合わせに座って私は紅茶を、アドニス様はコーヒーを飲んでいた。

身の程知らずと言われてしまうかもしれないけれど、何だかまるでデートをしているような気分になってしまう。

「こんな風に二人で喫茶店に入るのも初めてだったね。」

アドニス様が穏やかな声で話しかけてくる。

「は、はい。そうですね」

緊張しながら返事をすると、アドニス様は笑った。

「いつもフローネにはアデルがお世話になっているからね。一度労って何処かへ連れだしてあげたいって思っていたんだよ」

「え……? そうだったのですか?」

「そうだよ。今回はアデルの買い物で付き合ってもらう形になってしまったけど、今度はアデルも連れて音楽でも聴きに行かないか?」

それはまるで夢のような誘いだった。けれど……。

「あの……でも私なんかが御一緒しても良いのでしょうか……?」

私は貧しい男爵家の娘。そんな私が侯爵家のアデルとアドニス様と音楽を聴きに行くなんて…‥‥分不相応な気がする。

「良いに決まっているじゃないか? 何故、そう思うんだい?」

「それは……」

そこまで言いかけた時。

「お客様、恐れ入ります」

不意にウェイターが近付いて来ると、アドニス様に声をかけてきた。

「何ですか?」

「はい、実はこの店にお客様のお知り合いと名乗る方がいらしておりまして……少しお話出来ないかと、店の入り口にいらしているのです。少しお時間頂けないでしょうか?」

「知り合い……? 誰ですか?」

「はい、お相手の方はスミスと名乗っております」

「スミス……確かに何人かスミスという知り合いがいるな……」

考え込むアドニス様。

「あの、アドニス様。私のことは大丈夫ですので、どうぞ行って来て下さい。大事な知り合いの方かもしれませんので」

「確かにそうだな。ごめん、フローネ。少し、席を外すよ」

「ええ。どうぞ行ってらしてください」

立ち上がるアドニス様に声をかけると、彼は少しだけ口元に笑みを浮かべて店の中へと入って行った。

1人になり、再び飲み物を口に運ぼうとしたとき。

「……やっと見つけたわ。フローネ」

突然すぐ後ろで声が聞こえた。その声は…‥‥。

「!!」

慌てて振り向き、目を見開いた。
真っ白な帽子に海のようなワンピースドレスのリリスが私を見おろしていたのだ。

そ、そんな……どうしてリリスがここに……?

「リ、リリ……ス‥‥‥‥?」

自分の声が、身体が……震える。

「フローネ。お待たせ、あなたを迎えに来たわ」

リリスは私を見つめ……美しい笑みを浮かべた――




※ 次回、アドニス視点になります
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