お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

10 リリス 1

「でもそれは……クリフ……様と、ご主人様たちに出て行けと言われたから……です」

何とか声を振り絞って答える。

「ええ、そんなこと分かってるわ。だってフローネが私に黙って勝手にいなくなるはずないもの。ね? そうでしょう?」

リリスはにっこり微笑むと、私の手を包み込んでくる。

「そう……です」

ニコルを人質に取られているような状況ではリリスが気に入るような返答をしなければならない。
私の答えに満足したのか、リリスはますます笑顔になると窓の外に視線を移す。

「あ、見てちょうだい。フローネ! 私たちが一緒に過ごす別荘が見えてきたわ!」

「え……?」

リリスの言葉に、私も窓の外を見ると小高い山の上に真っ白な大きな屋敷が建っている光景が見えた。

「あそこでこれから楽しい休暇を過ごすのよ。私とずっと一緒にね」

いつの間にかリリスが私の近くに来ていて、耳元で嬉しそうに囁いてくる。

「ずっと……一緒に……?」

その言葉に背筋がゾッとする。

「ええ。ずっと一緒よ」

「は、はい……」

私は絶望的な気持ちで返事をした――



****


 連れて来られた屋敷は、南国ムードたっぷりの真っ白な屋敷だった。
整えられた庭には、ヤシの木や南国の花々が植えられている。

「さ、入って。フローネ」

「はい……」

リリスに促されて、大きく開け放たれた扉から屋敷の中へ入った。
吹き抜けのホール、大理石の美しい床……どれもが贅をつくした作りだったが私は少しも好きになれなかった。
ラインハルト家のような、落ち着いた屋敷が……温かみのある雰囲気が好きだった。

「こっちへいらっしゃい、フローネ」

リリスが階段を上って行く。逆らうことの出来ない私は黙って彼女の後に続くしかなかった。

「この部屋よ」

リリスが案内してくれた部屋はとても広く、白い色で統一されていた。
ハンガーラックにはリリスの物と思われるドレスが何着もぶら下がっている。

「あの……このお部屋はリリス様のお部屋ですよね……?」

ソファに座ると、リリスが答えた。

「何を言ってるの? ここは私とフローネの部屋よ。今日から一緒に使うのよ」

「わ、私が一緒に……? ですが、リリス様はクリフ様と一緒の部屋を使うのですよね?」

リリスはまた嫌がらせをして、もっとクリフから憎ませたいのだろうか?
すると、リリスの口から思いもよらない言葉が飛び出した。

「私がクリフと? 冗談じゃないわ」

「え?」

まるで吐き捨てるような口ぶりに、驚いた。

「だ、だって……クリフ様とは新婚ですよね……?」

「新婚だから、何だって言うの?」

冷たい言い方はクリフを嫌悪しているようにも聞こえる。

「でも、二人は愛し合って結婚したのではありませんか?」

しかし、リリスは私の質問に答えることなく逆に尋ねてきた。

「ねぇ、フローネ。あなた……クリフのこと、好きだったでしょう?」

「! た、確かにそんなときもありましたが……今は違います」

はっきり断言した。

「ええ、そうみたいね。でも、好きだったのは事実よね?」

「そうです……けど……」

「それがクリフと結婚した理由よ」

「え……?」

「だから、フローネがクリフのことを好きだから私は彼と結婚したのよ」

「!」

その言葉に血の気が引く。
ま、まさか私に嫌がらせをするためにクリフと結婚を……?

するとリリスは私の心の内を察したのだろうか?

「あら、その顔は何よ。まさか、あなたに嫌がらせをするためにクリフと結婚したと思っているの?」

「そうじゃ……無かったのですか…‥?」

「ええ、そうよ。フローネに嫌がらせをするためだけにクリフと結婚したのよ。でも……それはあなたのせいなのよ。フローネ」

リリスが私を睨みつけてきた。

「なぜ私のせいなのですか?」

「私の気持ちに気付くことなく、クリフに好意を寄せていたからよ。そもそも、私は男なんて嫌悪の対象でしか無いのよ! 男なんて皆……この世から全て消えてしまえばいいのに!!」

リリスは大きな声をあげてソファから立ち上がった――

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