湖に映る月
それでも、私が皇太子の宮中に入内できたのは、父と帝との間に約束があっての事だった。

「それで、礼子の方は?」

「私ですか?」

「ああ、皇太子のお渡りはまだないのか?」

少しイラついた私は、顔を兄上から背けた。

「その内、お渡りがございます。」

「その内っていつだ。入内してから1年経つというのに、まだお渡りがないなんて。」

そう。私は昨年、今頃の時期にこの宮中にやってきた。

その時に、皇太子様のお顔を見ただけだ。


「まあ、今の左大臣の娘がいるのではな。」

左大臣の娘は、亜子様と言って、中宮候補の一人だ。

皇太子様が溺愛していて、お渡りも頻繁のようだ。

「礼子が皇太子様の御子でも身籠れば、我が橘家も安泰なのだが。」

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