湖に映る月
「よかったな、礼子。」

兄上は喜んでいたが、私は落胆する一方だった。

「どうした?」

「ご覧になったでしょう。皇太子様は私の顔を覚えていらっしゃいませんでした。」

「礼子だって、覚えてなかっただろう。」

「だって、それは……」

確かにそうだ。

私と皇太子様の間には、何もない。


そして、その夜は訪れた。

「更衣様。今夜は皇太子様が、更衣様をお召でございます。」

「えっ?私が?」

あきはウキウキしている。

「やっと皇太子様と、夜を過ごせるのですね。」

あきは早速、準備を始める。

「私は何をすればよい。」

「えっ?」

「皇太子様と何をすれば?」

あきは、これはいかんと私の耳元で囁いた。

「何も。皇太子様の言う通りに、なさいませ。」
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