キミと風に乗って
「今まで、辛かったよな。迎えに来るのが遅くなって、本当にごめん」
「……っえ?」
心の中はぐちゃぐちゃで、もう何も考えることができない。
今、わたしを抱きしめている男が何者で、わたしとどういう繋がりがあってそんなことを言うのかも、何一つ分からない。
だけど、ただ一つ確かなものは、
この男の腕の中が、ありえないくらい心地良いってこと。
わたしはずっと、この場所に帰りたかったのだと思った。この人のことをなんにも知らないのに。
ほんと、バカみたい。
「もう、お前は誰からも傷つけられることはないから。今日からは俺が、いつもお前の側にいる」
何を根拠にそんなことを言えるのかは分からない。
だけど、そうであって欲しいと願う自分が確かにいる。
「本当、に……? わたしを捨てない?」
「ああ、本当だ。お前を捨てたりなんかするものか」
その言葉がすとんと胸に落ちて、わたしは反射的に抱きしめ返した。