この恋、最後にします。



「俺の日本酒でも飲むか?」


「へ?」


「へ?じゃないだろ!間接キスにタジタジか~?」


今日一番の大きな笑い声だろう。


3席となりのグループの成宮くんと細野主任にまで聞こえたようで、皆がこちらを向いた。


柏木さんの苦笑いは私の顔を映してくれてるかのようだった。


「課長飲みすぎです~」


一つ年下の柏木さんに助けてもらう始末。


これじゃあ私、ホントに使えない派遣社員じゃないか。


朝の被害妄想が現実になってしまっていることに、私は悔しく感じた。


「ん・・・泣いてるのか神子谷ちゃん」


「え・・・」


「いやいや、それは面倒だからやめてくれよ」


急に酔いがさめたかのように、呆れた声だった。


「いや、別にこれは・・・ドライアイっていうか・・・」


自分でも笑ってしまうような誤魔化し方に、悲しいのか可笑しいのか分からない変な感情に駆られてる。


だから、歓迎会とか、こういう飲み会には付き合いたくなかったのに。


「おーーーい、神子谷泣きまーーーーす」


いつからこんなにも落ちこぼれに、ダメな意味で注目されてしまう人間に。


ああ、私はいつもこうだ。


今の自分の在り方に、生き方に、疑問をもっては否定してしまっている。




「いやあの」


「・・・!?」


俯いた私のすぐ横から声がした。


とても頼りがいのありそうな声が。


「ほんとにドライアイかもっす」


たくましい顔で、真剣な声でいうものだから私は思わず涙をこぼしてしまった。


「いや、成宮く・・・」


流すのは我慢していたのに。


彼のおかげで、涙腺が緩くなってしまったのだ。


涙が止まらない。


「めちゃくちゃ重症・・・?」


「いやっ、これっ、重症かもね・・・」


笑いながら私が答えるものだから、周りも安堵したように、課長を「びっくりするじゃないですか~」と冗談で責める。


課長も「悪い悪い、飲みなおすか」といい、事は一瞬の出来事として収まる。


「大丈夫ですか、神子谷さん」


「うん、ごめんね。席戻っていいわよ」


「そこはありがとうって言って」


「ありがとう・・・」


「ん、どういたしまして」



 

< 10 / 142 >

この作品をシェア

pagetop