この恋、最後にします。




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「駅から近いんだな」



「え?」



「あっああいや、捜索しようとして言ったんじゃなくてその」



「ふふっ別に気にしてないですよ」



居心地いい。



でも、知らないほうがいいことだってある。



このまま気持ちを聞かないまま、今のままの関係でいい。




上司と派遣社員。




だから聞かなかった。



開き直っている自分に嫌気が立つが、もういいとしか思えないくらい余裕がなくて。




「じゃあ・・・今日はありがとうございました」



「ほんとにここでいいのか?」



「はい、もうそこすぐ右なので」



あんまり思い出したくないパン屋のところで解散なんて、我ながら強者である。



「あーーー・・・うん、えっと、じゃあ、あんま夜更かしとかしないように」



「もう子供じゃないんだから」



「そっか、ははっ」




きっと細野主任が送ってくれなかったら、この帰り道一人で泣いていたと思うから、本当に感謝している。



寂しさで苦しくなる夜ってあると思うから、それを経験したくないから。



逃げたいから。



だから、主任のその表情を見つめて甘えてしまいそうになる。




「主任」



「じゃあ、気をつけてな」



「・・・はい」



「もう無理するな」



「主任あの・・・」



もう一度呼び止めると、細野主任は少し冷たい表情で私を見る。



「俺はあいつの代わりになるのか?」



「え?」



「俺のことは神子谷が考え込むようなことじゃない。だから気にするな」



勘のいい同士だ。


お互いが思っている気持ちなんて、分かり切っているのだ。



細野主任が私に好意を寄せていることも、私が成宮くんに恋していたことも。



言葉にしないだけで分かり切っているのだ。




「あれ、神子谷さんじゃん」



急に背後から声をかけられる。



お互い振り返る。



主任は分からない様子だったけど、私は分かった。



「汐里ちゃん・・・」



「へえ~~夜な夜なデートですか。全然タイプ違う。もう乗り換えたんだ」



淡々と話す汐里ちゃんに声も出ず、固まる。




 
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