この恋、最後にします。
思い出す人
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「おはようございます」
「あ!神子谷さんおはようござい・・・ってすごい顔、怖いですよ」
「え?そんなに?」
案の定、昨日の夜、細野主任と別れた後、家に帰った私は頭がボーっとしたままの状態でお風呂に入り、寝室に入ったものの寝つけずじまいだった。
今日の朝、鏡を見る気にもなれず、メイクで隈を隠すこともしなかったようで、柏木さんにギョッとされる。
「ちょっとちょっと、これじゃあ美人が台無し」
そう言って柏木さんはポーチからコンシーラーを取り出す。
上を見てと指示され、言われるがままじっと上を見つめる。
「よし、これでおっけ」
鏡を渡され、またもや言われるがままに鏡を受け取り、自分の顔と対面する。
「うおっ、生き返ってる」
「でしょ?こうでもしないと、あの人が過剰に心配しちゃうもの」
「あの人?」
「ほら、噂をすれば」
カツカツと革靴の音。
振り返れば、昨日のビジュアルのままの細野主任の姿。
「おはよ」
朝に適した爽やかな笑顔。
あれ、細野主任の顔ってこんな爽やかに見えていたっけ。
前までは近寄りがたい印象しかなかったのに、最近は細野主任の柔らかな表情しか見ていない気がする。
「お、はようございます」
「今日、課長に言うのか?」
「あれ、神子谷さんなんか課長に伝えることでもあるんですか?
あ、社員登用のことです?」
「しー!柏木さん、まだこの事は社内では秘密ですよ」
「あっつい!すみません気を付けますね」
「んーと・・・実は試験の前に一度実家に帰ることにしました」
「実家?何かあったんです?」
「ちょっと、野暮用・・・?」
「あれ、主任は知ってるんですか?」
「え?ああ、うん、まあな。まあ、いいだろう。そういうのも必要だろ」
「ふーーーん」と、柏木さんは横目で主任を私を交互に見る。
きっと、悟られているが、あえて言わない柏木さんにいつも助けられている気がする。