この恋、最後にします。
--------------
夜、pon♪と久しぶりに通知の音がスマホから鳴る。
『お疲れ様。明日帰るんだよな、お気を付けて』
ただただこの文章に暖かさを感じてしまう。
甘えているという事実に目を背けながら、私は返信をする。
『行ってきます。お土産、買ってきます』
『叱られに行くのに、お土産は買うんだな』
ふふっと笑みがこぼれる。
『いいじゃないですか』
『そうだな、明日早いだろ。おやすみ』
『おやすみなさい』
ベッドの上、目を瞑る。
思い出すのは、仕事のこと。
柏木さんに、熊井さん。
細野主任に課長。
明日会う家族と実家の光景。
大丈夫、大丈夫よ。
思い出してない。
そう考えることで、前向きに考える私がいかに情けなく、白々しく生きているか分かってしまう。
「成宮くん」
・・・・!?
心臓がドクッとするのが伝わる。
今考えたのは、今声に出して名前を呼んだのは、何故。
この事実に、私は受け入れることができない。
なんで、なんで私今。
あの子の名前を呼んだの。
あの時、恋をしていた私の気持ちが徐々に思い出されてしまう。
だめ、だめなのに。
さっきまでちゃんと忘れていたのに。
明日、忘れるために実家に行くのに、なんで今。
悲劇のヒロインなみにめんどくさい女には絶対になりたくないのに、考えれば考えるほど私は、私が一番なりたくない女になってしまっているのだ。
成宮くんに恋をしていた時の私は不安定で、自分自身を嫌いになっていくことが多かったのに、思い出せば、またすぐ好きになってしまいそうで怖い。
だから、思わないように、考えないように必死に何か月も目を瞑っていたのに。
馬鹿だ。甘かった。