この恋、最後にします。



母に連れられ、到着した先は、カランコロン♪と入店の音が鳴る昔行ったことがある喫茶店だ。




「ここ・・・」




「すみません2名で、コーヒーとクリームソーダで」




慣れているのか、常連のような口ぶりの母。




椅子に座るや否や、母がさっそく口を開く。




「本当はいるんでしょ?」




「え?」




「本当は、好きな人、いるんでしょ?」




わざとらしくゆっくりと話す母に、少しだけ親に対しての苛立ちを思い出させる。




「だからもう期待しないでって。
恋愛の話はもう・・・ごめん。話すことない」




「私と似てるってさっき言ったわよね。
なら、好きな人いるわよね」




「どういうこと・・・」



「私、くらげと同じ歳の時は恋愛に没頭していたわ。
好きな人がいたから。
今思えば、日常にちょっとした刺激がほしくて頑張ってた。
でも、自信がなかったの。
自分を好きでない限り、相手に好意を寄せられた瞬間、嫌悪感を抱いてしまう。
感じてはいけない気持ちに、私は見破られてはいけないと気持ちに蓋をした。
好きという気持ちも一緒に」




コーヒーとクリームソーダが運ばれて、コーヒーを私の前に移動させる母。



クリームソーダのさくらんぼだけを手に取り、口に運ぶ。




飲み込んだと同時にもう一度口を開き始める。




「その時の自分に対して、今でもよく問いてる。
後悔してますか?って。
後悔してないと言ったら嘘になるし、好きになりたくなかったと思ってしまえば、もうそういうことだし。
結局は答えって心に宿って離さないものよ」




ストローでバニラアイスをつっつきながら、話を続ける。




「よく思い出す人はくらげにとっては誰?
問いてみなさい。
夜、寝る前に思い出す人。
楽しい時、綺麗な物を見た時、思い出す人。
朝、起きて、すぐ思い出す人」




「そんなこと、いいって別に」




「次にこう問いて。その人に好かれたらどう思う?
先に自分の自信のなさを感じた?
少なくとも私は違かったわ。
嬉しいが先で、後から不安が押し寄せた」




母の言う通りで、萎縮してしまう。




 
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