この恋、最後にします。
住所を送って、細野主任は本当に迎えに来てくれた。
母と父が驚いた顔をし、母には茶化すかのように背中を押されたりした。
それを見て、困ったように笑う細野主任を横目に見ながら、私は実家から離れた。
車の中で、細野主任が咳ばらいをする。
「水、飲みますか?」
「ん?ああ、大丈夫だ」
田舎の道なりが続いて、見慣れているはずの景色が暖かく感じる。
「あの細野主任」
「ん?」
「明日の花火大会、いっしょに行けませんか」
「・・・・」
「また無視・・・」
私がそっぽを向こうとした時、細野主任がフッと笑う。
「えっ聞いてるんですか?」
「聞いてるよ」
「なんで無言・・・」
なんで無言の時間があるんですかって言おうとしたが、言うのをやめた。
細野主任の耳と顔が真っ赤だったからだ。
「俺から誘うつもりだったんだけどな」
「そうですか」
「なんだ、冷たいな」
「!!」
不意に″冷たくすんなよって″と言う成宮くんの声が頭の中で過る。
最悪、私ったら、本当に、こんな時でも・・・最低すぎる。
そう自らマイナスに思うことで少しだけでも罪悪感を薄めるようにしている。
最悪な自分、最低な自分、付き合ってもいないくせに好きを貫いている気持ち悪さを、どうにかしてでもなかったことにしなければいけない。
忘れているふりをして、不意に思い出してもそれは今の私には関係がないということにしている。
今恋しているのは、
「どうした神子谷」
「?」
「考え事?花火大会の日、予定あったとか言うつもりか?」
細野主任なのだから。
「あり得ないですよそれは」と言い笑う。
細野主任の余裕がありそうでなさそうな所も見抜いてしまう私は、本当に可愛くないと思った。