この恋、最後にします。




先ほどよりも人だかりが見えてきて、自分たちもその人だかりの群がるところにまで来ていた。




「大丈夫か?汐里」



「大丈夫、優しいね雪」



「・・・」



愛を知らない汐里に、優しいねと言われるたびに、何もできていない自分に嫌悪感を抱く。



今日だって、最初は花火大会断ろうとした。



でも、今日くらいは・・・。



「雪、手、繋いでほしいな」



「なんか言った?」



人だかりに紛れ、汐里の声が雑音で聴き取れなくなる。



こうやって僕が無意識に顔を近づける行動も、汐里が自分への気持ちに近づいてしまう原因なのだろうか。



大学に入ってからというものの、汐里は僕の傍からひと時も離れなかった。



授業がバラバラな日はさすがに別行動ではあったが、その間に噂が耳に入るのだ。



「最上汐里って子、相当な男好きなんだよ」
「成宮くんのことが好きって成宮くん目当ての女の子片っ端から言いまわってるらしい」
「いつも可愛い服して恥ずかしくないのかな」



こんな噂が汐里の耳に入ってしまったら・・・と思い、僕の方から汐里の傍にいたこともあった。



「そういうのがだめなんだろ」と、いつしかケントとユウタが間に入ってくれるようになった。



噂が消えた今でも、周りの噂には敏感で、汐里が悲しむことのないように傍にいてしまう。



その行動が依存させてしまっているのは確かだ。



だから、僕がくらげの存在を皆に伝えたときは、汐里は何も言わずにひたすら目を合わせようとはしなかった。



でも、それでいいと思った。



このままだと、僕が汐里に依存してしまうと思ったから。




 
< 121 / 142 >

この作品をシェア

pagetop