この恋、最後にします。
「りんご飴、買ってくるからここで待ってて」
「ちょっと雪待って!」
「どうしたん、違うの食べたいんか?」
「違うよ、あれ、あそこ見て」
「あそこ?」
人の群れを指さす汐里に僕は周りをキョロキョロ見渡すことが精一杯だ。
「なに、どれ、どした」
聞いても汐里は何も言わない。
だから僕は諦めて、汐里が見る方向を気にしながらも屋台へ直行した。
「おじさん、これ一本」
「はいよ、500円ね~」と、真っ赤なりんご飴を受け取り、僕はそのまま振り返る。
汐里は確かにそこにいたのに、僕は目を見開くほどの衝撃が走るのだ。
「くらげ・・・」
「あーあ、あたしってば優しくない?」と言う汐里の声。
目が離せなかった。
くらげがいた。
期待していた分の喜びは大きい。
だけど、焦りで額に汗が滲んでしまうほど、僕はどうしたら良いのか分からず屋台の前で固まってしまう。
くらげの存在を確認できたつもりだけれど、人がまるでくらげの存在を打ち消すかのように前を通って邪魔をする。
一瞬見えなくなると、不安になる。
「行ってもいいよ」
「は?」
「汐里のこと置いて行っても怒らないよ」
「何言ってんだよ・・・」
「雪、あたしのこと見てるのに、瞳にあたし、映ってない」
「え?」
確かにそうだ。
今も僕はくらげが歩いていく先を追うのに必死で、汐里の声が耳に届いているのか曖昧だった。
「なあ汐里・・・くらげがここにいること、いつ知った」
「ケント。ケントがさっきLIMEで」
「あいつ・・・」
「ケントは悪くないの。これはあたしが頼んだの」
「頼んだ?どういうことそれ」
汐里は下を向いたと思ったらまた僕を真っすぐ見つめて無理して微笑む。
その姿を見るのは高校生の時ぶりだった。
僕は汐里に無理をさせてしまったんだ。
「あたしちゃんと諦める。そのために今日誘ったの。
雪のこと好きだから諦めるんだよ・・・少しは好きになった?」
「汐里、そんな無理して笑うな」
「なにそれ、ひどいなー!
雪に助けてもらってあたし嬉しかったよ。無理して傍にいてくれたのも分かってたよ。
ごめんね・・・今日まで好きを貫けてよかった」
「ごめん、汐里」
「やだなぁ!
・・・・いいから、もう。
くらげさんのとこ、行ってきなよ。
あ、神子谷さんって呼ばなきゃ怒られちゃうね…。
い、行かなかったらあたしがケント使ってでもしたこと、無駄になるから」
「汐里…」
「行って」
汐里が泣く。
大粒の涙が垂れていく。
暑い夏、蝉の鳴き声と太鼓の音と共に汐里の声が薄れていくのだ。
僕がなかなか汐里から離れないから、汐里は「じゃあね」と呆れた様子で先に僕から離れていく。