この恋、最後にします。
「お待たせしました」
「ふっ」と細野主任が笑い、私の元へと駆け寄る。
ふわっと私の頭をなでる細野主任に私は目を合わすことすらできない。
それは恋か、それとも罪悪感か。
「髪、乱れすぎ」
「へ!?あ、ああ、すみません」
私が動揺したからなのか、細野主任は苦笑いし、手を離すのだ。
「・・・すまん」
「いやいや・・・」
「行くよ、乗って」
私は、何も悪くない人を謝らせてしまった事実に、罪悪感を抱き、恋ではない瞬間を経験する。
きっと細野主任も気づいているはずだ。
「細野主任すみません」
「え?」
「私、行けないです」
「いいから、とりあえず乗って」
細野主任と初めて会った時のことを思い出してしまう。
それくらい今の細野主任の表情は冷たく仮面を被ったようだったからだ。
私は何も言い返すことができずに、細野主任の助手席にへと座る。
汐里ちゃんの件は、面接が終わったら探しに行こう。
その前に見つかってくれれば、それまでユウタくんたちが頑張ってくれれば・・・
そう思えば思うほど、心に穴が開いたような感情に襲われてしまう。また、不安と空虚とを植え付けるようだった。
頭の中で私は、ぐるぐると竜巻のように葛藤している、だけのように感じる。
結局私はこうなのか。
車を出発してからというもの、私の頭の中は面接の予習はもちろん、汐里ちゃんたちのこともいっぱいだった。
行けば解決することなのか、もし何もできなかった場合諦めた面接の行方はどうなる。私の未来はどうなる。とか考えたりして、頭を抱える。
外は朝にも関わらず暗く、夏の冷ややかな雨が町を黒く染めていく。
まるで私の心を映しているかのようだった。
汐里ちゃんは傘を持っているだろうか。きちんと雨宿りしているだろうか。大丈夫だろうか。
そんなことで頭がいっぱいだからなのか、前から歩道を歩く一人の人間の姿が一目散に目に入る。
こんな豪雨に何も持たずに歩く者などいるのか。
まさか・・・
車とその人の距離が縮まっていく。
髪はボブなのが分かる。汐里ちゃんの特徴そのものだ。
そうだ、さっき来ていた通知を確認していない。
カバンからガサガサと音を出しながらスマホを探し出す。
手を震わせながら、メッセージの通知を押せば、私は目を見開くことしかできない。
【すみません、電話なんどもしても繋がらないのでユウタから連絡先ききました。
さっきユウタが連絡した件は気にしないでください。
僕たちでどうにかするので。
くらげ、困った人には真っ先に助けたくなると思うけど、自分のことも優先して】
【連絡先は消してください】
メッセージを読み終わると同時に、先ほどまで目で追っていた女の子は通り過ぎてしまっていた。