この恋、最後にします。
追っていた女の子にようやく追いつく。
車を停め、私たちは車を降りてその子に声をかけようと近づく。
だけどその瞬間、雷が落ちたような衝撃に私は思わず立ち止まる。
「汐里・・・!!!」
「雪・・・?」
目の前で繰り広げられるドラマに私は入る余地もない。
人が多くなる昼の街、私たちに彼らは気が付くはずがない。
だから私は、声をかけることもできない。
だからといって、立ち去る力もなくなっていた。
ただ、目を見開いて呆然とする私に細野主任は「これでよかったのか?」と聞いた。
この言葉がやけに心を刺して、痛くてたまらない。
成宮くんが汐里ちゃんを見つけた。ただそれだけだ。
「なにしてんだろ・・・成宮くんから助けなくていいってメッセージきたばっかなのに・・・
馬鹿だ、勝手に暴走して、ホント私馬鹿みたい。
でも・・・よかった・・・何にもなくてよかった・・・」
この言葉を聞いた後、細野主任は気の立った目つきをし、私を抜いて歩き出す。
「おい!!!!!」
細野主任の怒鳴る声が響く。
この声を聞き、ようやく成宮くんたちは私たちの存在に気が付くのだ。
待って、細野主任。成宮くんたちは何も悪くないの。
そう言いたいのに、力が入らない。
「成宮お前いい加減にしろ、神子谷を巻き込むのはこれっきりにしてくれ。
年上の女性の気を引きたいなら、こんな子供みたいなこと一生するな。
なあ、分かったか。なあ」
「は?僕はそんなつもりは・・・」
「いいか、なあ。俺は一生お前を許さない」
この後細野主任は、成宮くんに対して言葉を投げかけ続けていたが遠く感じて何も聞こえなくなった。
何を言ったのだろうか、考えただけでも自分の恐ろしさに引いてしまう。
私は人を巻き込みすぎた。
細野主任が今、成宮くんに言った言葉は、私に対する言葉だと思った。
こんなことになるなら、恋なんかしなきゃよかった。
こじらせたりしなきゃよかった。
簡単に考えてはいけないことを私は夢に描いてしまったのだ。漫画やドラマのようにはいかない。
だったらいっそ、壊してしまおうか。
この際、自分に素直に行動したらいいんじゃないか、なんておかしなことを考える。
「成宮くん・・・」
「帰るぞ」
「待って、成宮くんと話したいの」
「おい神子谷、何言ってんだ。
こいつはお前の夢をぶち壊したんだぞ、目を覚ませって」
「成宮くんは私のこと考えてくれたのよ!悪いのは全部私なの」
「話にならない、行くぞ」
「行きません・・・!」
「くらげ・・・」成宮くんの声をもっと聴きたい。
好き。
ずっと。
忘れられない。
好きだから。
もう離れたくない。
だけど、運命というのは残酷で、この後成宮くんとは何も起こらない。
またいつも通りの日々を過ごすことになる。
成宮くんは私を見つめるが、汐里ちゃんに連れられてこの場を去るのだ。
人を好きになるのは簡単だ。うまくいかない原因はどれも単純なことなのに、どうしても分からない。
私はただ動けずに、人混みから消えゆく成宮くんを最後まで眺めることしかできなかった。
「一人で帰りますから・・・もう、甘えられません」
「・・・分かった。また会社で」
恋に恋する私に細野主任はきっともう何も想うことはない。引いたのだろう。
私は決める。
「もう、なんか、いいかな」
そう決めたにも関わらず、この先どうしていいのか分からず、ひとまず家に戻った。
その後の記憶はない。