この恋、最後にします。




消せていなかったあの時の連絡先には・・・



頼らない。



そんなもの必要ないと必然的に思ってしまうほど、私は成宮くんを想っている。



スマホをカバンにしまって、成宮くんに会うために走る。



会いたい。



もう、見ないふりも自分の気持ちからも逃げたりしないよ。絶対。


会いたい。


もう、嘘ついてまで自ら苦しい選択もしない。



息が苦しい。それでも私の頭の中は、成宮くんしか考えられないでいる。



これが答えだ。



そう教えてくれた母にも、父にも柏木さんや熊井さんにも・・・細野主任にも感謝している。



だからこそ、この気持ちをなかったことにはできないよ。しないよ。


早く、伝えたい。



夏が終わるこの季節の夜に光る車のライトやスマホの画面、お店の看板の光に圧倒されながらも、泣きながらも、真っすぐ見つめて・・・。



アパートの階段を駆け出して、一度、息を整える・・・。



だって、絶対・・・



「成宮くん・・・ッ」



ここで待っていると思ったから。



「神子谷さん・・・」



「今、ここ、社内じゃないよ・・・」



「・・・くらげ、会いたくて」



「私もだよ、成宮くん」



「うそ、まじ」



「うそ」



「え?」



「うそっ!ふふ」



「おーい、なんだそれ。どっちなの・・・」



いつもみたいに話す私たち、なんだか懐かしく感じて、ずっとこのままだったらいいのにと願っている。



だけど、それだけではいかないみたいで、成宮くんとの距離が近くなっていく。



あの時のように、顔を近づかせて、0距離で成宮くんの瞳を見つめる。



これがずっと望んでいたことなんだ。



さっきまでの掛け合いがなくなり、静かになった空間。



私は言った。



「好きだよ。成宮くん」



それに答えるように、成宮くんの口角が上がる。



「僕もです、好きです」



「敬語なんだ」



「照れてます、多分」



セミの鳴き声もなくなり、もっと静かになった夜。


胸が締め付けられて、息もできないほど、私はめくるめく恋に身を焦がすのだ。



「もう離したくない」


「それはこっちのセリフ」


私たちは強く抱きしめあう。



成宮くんに出会ったあの日から、恋したあの日から、ずっと変わることなく私の意識の中心に成宮くんがいたんだ。



ずっと苦しかった。だけどそれは、心地のいい苦しさだと思う。いくらでも耐えられるから、だから今ここにいるのだから。



恋に恋したっていいじゃないか。



それが本当の恋だと気づくかもしれないのだから。



でも、私はたぶん



この恋、最後にします。




  
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