この恋、最後にします。
連絡先




成宮くんは週に2日のシフトということもあり、あれからまだ会っていない。


そして私は、退職願を手にしている。


まだ事務所内に誰もいないこともあり、退職願を机の上に出す。


「どうやって提出しよう・・・」


か細い私の声は、今から意思を伝えるとは思えないほどだった。


あんなことをしてしまったのだから、私が退職願を出したとて、変な人だったと思われてすぐに忘れられるのだろう。


それはきっと好都合なんだけど、私は拗らせてるものだからそう簡単には忘れてほしくないとも思ってしまう。


ねえ、みんな、これが現実なのよ。


分かるでしょう?


見た目では分からない人こそ意外とメンヘラ気質なんだから。


「神子谷さん辞めちゃうの!?」


「へっ!?」


ワッという声に驚いて肩が上がる。


ふわりと広がるフローラルの香り。


顔を上げずとも分かる人物が、私の机の上の退職願を手に取る。


「柏木さん・・・今日早いんですね」


自然と柏木さんの手元から退職願を取り返す。


「ええ、ちょっと今日は外出しなきゃならないので」


「クレームですか?」


「ええ、そうよ」


軽く頷き、退職願を引き出しにしまう。


「ねえ、神子谷さんそれって、今日提出するんですか?」


「ははっ、どうかな」


分かりやすく乾いた笑いと、目を逸らす仕草に、我ながらバカバカしく思えてしまう。


数秒の沈黙から先に口を開いたのは柏木さんだった。


「嫌ですわたし・・・」


「え?」


拗らせの私にとって、その言葉はとても嬉しく感じてしまうのだ。


嬉しいはずなのに、私の表情は硬く、柏木さんの顔を見れないでいた。


「神子谷さんは分かってないんですよ。貴女のような方がいないと会社も回らないし」


・・・私がいなくたって会社は回るし


「神子谷さん、誰もがやりたがらない仕事とか雑用とか率先してやってるの皆わかってますよ」


・・・いやそれは、みんながやらないから、派遣だから仕方なく


「仕事は丁寧だし、それなのに定時できちんと帰れるくらい効率も要領もいい」


・・・まわりの正社員の視線が怖いから帰ってるだけ


「だから私、一緒に仕事していくなら神子谷さんみたいな人がいいんです」


「・・・はあ」


「あのだから、辞めるとか簡単に考えないでください!私神子谷さんと・・・」


「黙って聞いてりゃ、馬鹿にしたような言葉ばかり」


「え?」
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