この恋、最後にします。
「そうだったんですね・・・」
「覚えてる?採用面接のとき・・・」
「・・・?」
「神子谷さんの隣に座ってたのに、やっぱ気づかないか~」
そう柏木さんが頭を搔く仕草に、ほんのわずかにあの頃の記憶が思い出された。
「あ・・・うそ、あの眼鏡かけてた子・・・?」
「そうそう!あれ、私よ」
今の柏木さんからは想像もつかない雰囲気の子だった。
赤いフレームの眼鏡に、ストレートヘアの真面目な子だと思った。
頭を搔く仕草は変わってはいないが、あの時のオドオドした柏木さんは、今の柏木さんと比べると随分違う人に見える。
でも、きっと、ああいう子が面接で大活躍するんだろうなって。
ここにいるみんな同じだけれど、この子は本気でこの会社のこと学んできて挑んでるんだろうなって
おどおどしている中でも真っすぐな目は誰も裏切ることがない、揺るがない心があるなと、見た瞬間にそう思った。
私も負けていられないって、その時は私も同じ気持ちだったのに。
「じゃあわたし・・・」
「神子谷さんがいなかったら私ここにいない。ねえあの時」
「やめて、この話。今されると心が痛い」
「お願い、お礼言わせてほしいの」
「私なら大丈夫、ここ辞めたってまだ20代だもん。まだ大丈夫、まだ正社員枠の会社は見つかる」
「私のせいで神子谷さん正社員になれなかった」
「いいんだって、運命なんだって。だって私、柏木さんみたいに努力できてなかったってことだし、あれは関係ない」
「採用面接で必要だったのに、この会社の商品を持ってくるの忘れた私に神子谷さんが・・・神子谷さんの努力を無駄にしたのは私よ」
息継ぎも忘れているかのように、柏木さんは主張を止めない。
「もういいんだって」
「私全然努力なんかしてない、その結果が忘れ物って・・・ほんとにふざけた就活生だったのに」
「嘘つかないで、柏木さんの目は誰が見ても真っすぐで、この会社に入社したいって強い気持ちがでてたよ。
だから私、あなたに託したんだと思う」
「そんな・・・」
「現に私が何も言わずに渡したここの商品、柏木さんが決めて持ってきたわけじゃないのにスラスラ紹介できてた。
努力した証拠じゃない。私あんな風に紹介なんかできなかったと思う」