この恋、最後にします。
「嘘よ、神子谷さん。直前まで面接の解答例のメモ見てた」
「いいって、正社員じゃなくても派遣でここは入れたんだから」
「それが神子谷さんの本音でしょ?」
「え?」
「派遣でも、この会社に入りたかった」
柏木さんの口から、派遣でもとかそんな言葉が出てくるたびに思う。
悔しい。
でも、きっと私が柏木さんと立場が逆だったら「派遣でも」「派遣なのに」って言ってしまうと思う。
だから、何も言えない。
「もう吹っ切れたの!この前の飲み会でも、ああやって披露したのも吹っ切れたからよ。
だから別にこの選択しても後悔しない」
「ダメよ神子谷さんは私が絶対辞めさせないわ」
「しつこいって」
「しつこいよ、私。神子谷さんのような完璧に仕事できてカッコいい人辞めたら私がどうかしちゃうもんね」
「し、私情?」
「はい!てことで、今日わたし課長に話す。なんなら社長?」
話を勝手に終わらせ、いつものようにコーラルピンクのティントを唇につける柏木さん。
カチャカチャとポーチの中を整理して、「よしっ」と喝をいれる柏木さんを見て思ってしまう。
「変わったんだね」
「そう、あの頃の眼鏡女はいないよ。神子谷さんのおかげでね」
そうウィンクし、柏木さんは椅子から立ち上がって事務所からそそくさと出て行ってしまった。