この恋、最後にします。



「よろしくお願いします」


なるべく彼に興味がない素振りと返答をし、軽く会釈を交わしてから自分のデスクに向かう。


早く課長や他の社員さんたちが出勤してくることを願い、誤魔化すようにパソコンの電源をつけた。


「・・・・・・・」



無言が続く。


それほど広くない事務所内に冷たい空気が感じられた。


この空気にもちろん耐えれるわけもなく。


私はこの場を離れることにした。


お手洗い、そうよお手洗いに行こう。


ゆっくりと椅子から腰をうかせる。


視界に成宮くんが入らないように懸命を尽くす。


なるべく関わりたくないその一心で。


なぜか必死な自分に笑いそうになってもいる。


これまた静かにドアノブに手をかけようと、したその瞬間、大きな衝撃が私の手に


「イッタッ!!!!!!!」


噓でしょ...


「静電気...」


「ぅえっ、大丈夫っすか?」


やや笑っている彼の声が後ろから聞こえる。


やってしまったことに気が付く。


そうだ、いつもこの時間は私しか出勤していないから油断し、大きな声をだしていたようだ。


「だ、大丈夫。ただの静電気」




この季節に静電気なんて滅多にあるわけないのに、なんてタイミング。


きっとエアコンが効きすぎて、湿度が下がりすぎたのね。


乾燥にまで裏切られた気分だ、と変にイライラしてしまう。



「神子谷さん、俺が開けますよ」


「え!?い、いいよ大丈夫だから」


「また痛い思いしますよ」


笑っていやがる。


私はその紳士な言葉も無視し、成宮くんから視線をそらす。


自分のポケットからタオルをだし、成宮くんに見せつけるようにわざとらしくドアノブにタオルを巻いた。


「ああ...さすがっすね」


さすがって。


会って数分で私の何がわかるっていうの。


この言葉さえ無視をして、この場を離れることに成功した。




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