この恋、最後にします。
皆さん。
そう、皆さんですよ。
今これを読んでくれている皆さん。
ここまで読んで、分かったと思いますが
そう...
私は...
私は「拗らせあまのじゃく女」だということを...!
個室にはいり、バクバク動く胸に手を当てる。
「無理無理無理無理!!!!」
あんな年下のかわいい男の子に、紳士な対応されたら
そんなの、好きになっちゃうじゃん!
赤く火照る頬に両手をあてて、今私がどれくらい熱いか確認する。
会ったばかりの子よ?
一目惚れ????
そ、そんな非常識なこと私がするものですか。
確かに見た目はどタイプだったわ。
それは認める。
でもいけない。
大丈夫よ、冷たく返したもの。
私のこのバクバクな心臓は聞こえていないはずだわ。
腕時計を見ると、すでに時刻は社員が出勤しはじめる時間になっていた。
「戻らなきゃ...」
そう個室からでようとすると、出勤したばかりの社員さんの笑い声が聞こえてくる。
「やば」
途端にでるタイミングを逃してしまったと、頭を抱える。
なぜ、私がこんなにも社員さんを避けているかというと...
これも、なんとなく分かってはいると思うのですが、拗らせているのだ。
私は、社員でもなくただの派遣だから。
正社員と派遣は大きく扱いが変わるし、ましてや正社員の人は私みたいな派遣になんか目もくれない。
底辺に見られているに決まっているのだから。
今ここで正社員に出くわしたらきっと、こう思うに違いない。
「いや、ほんと使えないと思う」
「いやわかる」
「そう?」
ほらきた、ビンゴ。
きっとこの会話も派遣の私たちが使えないという愚痴なのだろう。
確信ができるほど、私みたいな派遣は馬鹿にされるのである。
出なくてよかった。
安堵したのもつかの間、三人組の一人が「ねえ、人いるよ」と二人に声をかけたのだ。
まずい。
「別に聞かれちゃまずいこと言ってないよ、堂々としましょ」
聞かれちゃまずいことを、言っていない...だと???
なにを言っているんだこの女は。
派遣の悪口を言っていたではないか。
「まあそうだけどさ、茉優は使えないと思った?」
...茉優。柏木茉優
「ん~~、まあ、私は好きだよ」
「え~~~茉優が言うなら」
柏木茉優、私の隣のデスクの社員だ。
いつも完璧なビジュアル、睫毛が下がっているとこなんか見たことがない。
ゆるふわパーマの色素薄い肌に瞳。誰もが憧れるお姫様のような子だ。
あんまり話したことはないが、思ったことはきちんと言葉にだすような子だとは薄々分かっていた。
だけど、まさか。
愚痴や悪口を社内で言っているような子だとは思わなかったから、少し残念ではある。
い、いやいや、なに社員に期待なんかしちゃってるの。
「使ったほうがいいよ、お金が勿体ないわ」
ん?
お金?
「いやいや、茉優がお金のこと気にする?」
「気にするというか、せっかく買ったものなんだから最後まで使わないと」
「ん~まあそこまで言うなら使うか~~新作リップ」
は...新作リップ?
ほらきたこれ、先走って拗らせちゃう悪い癖だ。
またやってしまった。