この恋、最後にします。
第一歩
「この前、前の店舗はどうだったのかって俺に聞いたよな」
「え?聞こえてたんですか?」
「答えに困ってな」
「だからって、無視はよくないですよ!」
「あはは、申し訳ないな。今話してもいいか」
車で二人きりの空間に数秒の沈黙と、細野主任の溜息が聞こえる。
溜息と言っても、なにか決心が着く前の息の整え方だ。
「嫌なら話さなくても・・・」
「話すって言ってるんだ、黙って聞いててくれ」
「そこまで、言わなくても・・・」
咳ばらいをし、まっすぐな目を見て運転するその眼差しに何かが奪われてしまう感覚に陥る。
私今、すごい人の横に座ってるんじゃないかとまで思ってしまう。
どうイメージしてほしいのか分からないけど、分かりやすく言えば高めのブランド品のスポンサーになりそうな人である。
芸能人レベルのスタイルとビジュアルをもつ、細野主任の過去の話を、この底辺な私が聞く日がくるとは。
ただの派遣の私が。
自惚れないように私も咳ばらいをし、息を整える。
「前の店舗、大阪だったのは知ってるよな」
「はい・・・」
今はここ、東京で主任をしている細野主任。
「一気に業績が落ちたのも、知ってるよな」
「まあ、噂程度に・・・・」
「それだよ」
「え?」
「いや、だから、答えに困った理由」
「は・・・?言ってる意味がよくわからないです・・・
え、主任という立場で、売り上げが落ちたのが恥ずかしくて大阪から異動したのを隠すために話せなかったんですか?」
「おい!全部言うな!」
「ええ?あ・・・っはははは、ええ~?」
細野主任と二人で話してみて、少しわかった気がする。
この人、誤解されやすい人だ。
「大阪から異動してきたことなんて、誰もが分かってるから隠す意味すらないのに・・・」
「だーーから、そこまで言うなって。恥ずかしいだろ」
「しかも、真剣に言うから深刻な過去があるんじゃないかって身構えちゃいましたよ」