この恋、最後にします。
まさか、あの課長が、私のことをアピールしてくれていたとは・・・
もしかしてあの日、本当に柏木さんが、課長に話をつけてくれたのではないかと一瞬頭をよぎる。
いやいや、まさかね。
にやけてしまう顔を頑張って抑える。
「あれ、神子谷さんじゃん」
振り返る間もなくわかるこの声は・・・
「成宮くん、やっほー」
少し冷たく接してしまう。
間違ってないし、これが恋というものである。
一種の好き避け行為というものだ。
「どしたの、さぼり?」
「は!?」
「嘘だよ、冗談」
余裕そうに、鼻で笑う成宮くんに少しイラっとしながらも平然を装う。
「はあ、そっちは?」
「家具の移動手伝ってる」
「あっそ~」
「適当に返すんじゃねえって」
「じゃあね、私忙しいの」
「暇だろ」
「はあ!!??」
こんな子供みたいな成宮くんをなぜ私は一目惚れしてしまったのだと少し後悔する。
「悪い、邪魔して」
「主任、どうしたんですか」
息を切らしてお店に入ってきた細野主任に、私も成宮くんも熊井さんも驚く。
「柏木が、クレームのご自宅に向かったんだが、電話の様子がおかしかったんだ」
「え?おかしいって」
「明らかにおびえてる感じだった。
クレームのお客様、よくクレームをしてくる人でよくない噂をよく聞く。
もしかしたらなにかあったのかもしれない、俺、今からそっち行く。ここは頼んでもいいか」
「困るわ、主任」
熊井さんは細野主任が行くことが本当に困るようで涙目になっている。
「これから常務が挨拶に来るのに、主任がいなかったら癖ありの常務が大暴れよ。
お客様もいるの。お願い、ここの売り上げも急激に下がったらダメなのよ」
「柏木の方が大事です。俺の大事な部下ですから」
「・・・・・・私じゃ」
不意に声が出ていた。
「私じゃ、頼りないですか」