この恋、最後にします。
「何言ってんだあんた」
細野主任が目を細めて私を見つめるその瞳の奥は、本当に頼りないと言っているかのようで悔しくなる。
だが、その横で困った顔の熊井さんは私よりももっとこの状況が悔しいし、かなり参っていると思う。
なぜなら常務というのは本当に難あり癖ありの強者であり、店舗の良さが伝わると常務によって評価されたその店舗は売れるというジンクスがある。
でもまあ、ジンクスと言っても新商品の宣伝が他店舗よりも大きく宣伝できるということだが。
同じお店でも、3つの店舗はライバルなんだとか。
そこで、常務に挨拶するために重要なのが、主任。細野主任の存在なのだ。
細野主任は、どの管理職の人よりも常務と仲が良い。
だからなのだろう。
熊井さんは、細野主任を使うことで東京の店舗の評価があがると考えている。
噂だと、細野主任は常務の娘と婚約するという噂までも出来上がっている。
調子のいい常務が細野主任のビジュアルに惚れ、娘に紹介したのだとかないとか。
真相は奥底に眠っているが、細野主任がいることで常務の機嫌がよくなることは間違いないだろう。
「柏木さんのところ、私に行かせてください主任」
「だがな・・・」
「私がダメな理由でもあるのでしょうか」
「女性一人が行くより、男の俺が行った方が安全だと思うんだ」
「じゃあ俺が」
割って入ったのは成宮くん。
「ダメよ、成宮くんには行かせられない」
そういうと、少し気に障ったのか頬を膨らませた。
「はいはい、俺は事務所に戻りますよーー」
相当気に入らなかったようで、少しこちらの様子を気にしながらお店からでていく。
「性別関係なく、私に行かせてください。任せてください。
私、案外図太いし、クレームの電話で謝るのは得意になりましたから」
「でもな・・・」
「なめられたくないのでね!」
「あ・・・!おい!」
そう言い残し、私は惜しむことなく店を飛び出した。