この恋、最後にします。




柏木さんと二人きりの空間はやはり緊張するものだ。



「クレーム行くとき、可愛い服着ちゃだめだよ」



そんなこと言いたいわけじゃないのに口が勝手に動いてしまう。



これもただの言い訳になるのかな。



「私バカだから・・・」



「そんなこと言ってるわけじゃ・・・」



「ううん、バカなんです。誰に対しても可愛いって思われたくて、好きでこんな服着てるんですもん。
たとえ、クレーム相手でもエロ目的の男性にも、誰にでも可愛いって思われたくて好きな格好してるんですよ。

バカですよ本当に」



「うん、でもやっぱりそうだね。バカかも」



「あはは、すごい直球」



目の前にある自販機に500円をいれる。



私は迷わずミルクティーの後にブラックコーヒーを押し、2缶とも柏木さんの顔の前に見せつけた。



「好きなのどうぞ」



「どっちも好き、どっちでもいいよ」



「じゃあこっち」



渡す素振りを見せ、柏木さんの手が伸びたところで、ひょいッとミルクティーを私の胸元にまで引っ込めて、代わりにブラックコーヒーを渡す。



「ちょっと~!私がミルクティーって言っ・・・」



「好きなのは選ばないと」



「え?」



「選ばないとだめだよ。あれもこれも手を出せば、みんなついてきちゃうよ」



「いいよ別に」



「ブラックコーヒー飲めるの?」



「飲めなくても、もらうよ」



「いいの?」



「いいよ」



「じゃあ、今飲んで」



そういうと、まだ飲んでもいない柏木さんの表情が苦いことを表した。



「飲めないじゃない」



「だって・・・」



「意思もないくせに、好きを何でもいいように使っちゃだめだよ」



ブラックコーヒーを強い力で掴んでいた柏木さんの手を握り、ミルクティーと交換する。



「好きを全員に見せるようなことはしちゃだめ。


誤解を生んでしまうだけ。また次、飲み物を奢るときにブラックコーヒーを渡すことになっても
それでも柏木さんはもらうんだろうけど、相手はどう解釈するのかちゃんと考えな。
きっと同じこと繰り返すよ。柏木さんに重荷が重なっていくだけよ。だから考えるの。ちゃんと意思を持って。


それができれば、バカなんて思わないわ」



「同い年に説教されちゃった」



そう笑い、柏木さんはいつものように頭を掻く。



「泣きつかれたでしょう。今日はもう帰ろうか」



「そうね」



私たちはミルクティーとブラックコーヒーを飲みほした後、待っていてくれたパトカーに乗り、暗くなった夜道を黄昏ながら空を見上げたのだ。






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