この恋、最後にします。
こんなシチュエーションは考えたこともなかった。
恐怖と、困惑、だけどやっぱり私は彼にドキドキしてしまうのだ。
顔の横にある成宮くんの血管のある腕。
香水の匂い。
なにもかも、私は成宮くんに依存してしまっている気がする。
ダメ。
だけど、ダメと考えれば好きが邪魔する私の気持ちが憎い。
「答えないの?」
「うん、そういうの、やめて。困っちゃうよ」
「困るの?」
「あんまり年上をからかわないで」
「だって神子谷さん、年上っぽくみえない」
「そうやって調子いいこと言うのもやめて。
成宮くんこそそういうこと言っちゃうんだ。
人のこと言えないじゃない」
顔をのぞきこむ成宮くんを、私は間近で見ることさえできないのだ。
「ねえ神子谷さん」
「っなに!」
しびれを切らした私は、成宮くんの目を真っすぐ見つめた。
軽く威嚇のつもりだが、想像よりも真っすぐ見つめる成宮くんに一瞬吸い込まれてしまいそうになる。
「俺の家、おいで」
「・・・何言ってるのか分かってるの?」
「うん、分かってる」
「どういうつもり?急に何なの?」
「そのままだけど・・・」
溜息をつき、成宮くんは壁についた右手を離す。
やっと身動きがとれた私は、成宮くんを睨み、カギを探してやっと家に入れる。
「神子谷さんって意外と頑固さんなんだね」
「そうだよ」
「・・・もういいや、じゃあね」
「・・・・う、うん。気を付けて帰って」
「おーーう」
そう冷たく突き放したつもりだが、成宮くんは笑顔だった。
やっぱり、調子のいいのは言葉だけだ。
ギュルルルルルル・・・・・
「・・・・・」
「え?」
「やべ腹減った」
「お昼は?」
「神子谷さん助けに行ったから昼から食べてない・・・」
「ちょっと・・・なによそれ・・・」
クレームの家に行ってからもうすでに7時間は経っているだろう。
まだまだ成長期の成宮くんは、心底辛いだろう。
だけど、そんな顔で見つめるのはよくないよ成宮くん・・・。
どうしても母性本能が働いてしまう。
ダメダメダメダメ!
5歳も下の男の子を先輩の女が一人暮らしの家に連れ込むなんて、世間一般的にどうなのよ。
「まじむり、お願い」
「い、いや、ななななに言ってるの!?
私は部屋になんか誘ってないわ。成宮くんだよ、成宮くんがさっき自分の家に誘ったのよ、そう、でしょ?
私の家に行きたいわけじゃないでしょ。
だからもう今すぐ家に帰って、ほら早く」
言葉が止まらない。
だけど、そうしないとダメみたいだから。
「お願い!マジお願い!」
両手をしっかり合わせ、しっかりと目を瞑りお願いする成宮くんに、わたしは脳内で、悪魔と天使を戦わせるのだ。
「んあああ、しつこい!」