この恋、最後にします。
上書き
一度見たものを見なかったことするには到底難しい。
見てしまったメッセージをもう一度見る。
相手は、成宮くんではなく間違いなく″あの人"であった。
pon♪
もう一度鳴る通知音に心臓の音が早まる。
『くらげちゃんのタイミングが悪かったら大丈夫なんだ!』
そんな優しい言葉でさえ、不穏な空気を思い出すこととなる。
もう、連絡なんて来ないと思っていたのに。
pon♪
『あっでも、嫌だったら言ってね』
メッセージの送り主は、間違いなく佐倉 雫だ。
止まらない通知音は私の心臓を壊そうと必死なのだ。
佐倉さんとの出会いは、就職に失敗した時期に出会った男性だ。
あの頃は本当に精神も参っていたし、佐倉さんとの出会いは運命にも思えた。
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「元気ですか?」
小さな町カフェでバイトをし、次の就職先を考えていたあの頃の私は、人の感情や情緒にとにかく敏感だった。
だから、よく来る常連客の体調をよく気遣うようになっていた。
その相手が、佐倉さんだったってだけなのに。
「元気ですよ?」
「あっよかったです・・・」
「えっ元気ないように見えました?」
やばい、気に障ったかな。
「あ、いや!なんとなく聞いてみたってだけで」
そう思ったのも束の間で、表情が急に柔らかくなる。
「そっか、じゃあ今度、話でも聞いてもらおうかな」
「はい!ぜひ!」
人の力になれるということは心底嬉しくて、つい承諾してしまった。
「えっと、アイスコーヒーで、すよね?」
「そう、よろしくお願いします」
人の力になれたことが嬉しくてニヤついていた私に、佐倉さんもつられて笑っていたと思う。
きっとここで違う反応をしていれば、関わることすらなかったはずなのに。
話を聞く、という口実をしてから、佐倉さんは毎日のようにカフェにくるようになった。
「ねえ、あの人まーた来てるよ?」
仕事をしながらさりげなく私に伝える店長が、心配そうに私を見るのだ。
やっぱり、私の気のせいではないと気づくのも遅かった。
「いつもので」
「あ、はい」
「あとこれ」
「え?」
渡してきたのは、間違いなく名刺だった。