この恋、最後にします。
「あれ、成宮くん今日出勤?」
背後から華麗に登場する柏木さんだが、いつもの雰囲気と変わっていた。
「柏木さん!もう大丈夫ですか?」
「ええ、一晩寝たら元気になりました。
本当に二人ともありがとう」
「眼鏡ですか?」
「コンタクト、もう面倒だから」
「それに、髪巻いてない・・・」
「誰にでも媚びるのはやめたわ、私。
神子谷さんのおかげで目が覚めた。好きな人にだけ好きな自分を魅せることにしたわ」
「そうですか、素敵ですよ。柏木さん」
「えっへへ、ありがとう。成宮くんもどうかな?」
隣で黙り込む成宮くんを押しのけて私が出しゃばってしまっていたことに気が付く。
椅子から立ち上がり「コピーしなきゃ」と言い訳をし、その場から立ち去ることを決めた。
「いいと思いますよ」
耳を澄ませて聞こえた返答。
ぎこちなさは変わらずだったことに、やっぱりホッとしてしまう。
そんなことを考えている間にも、地獄が近づいてることに気付かないでいたのだ。
pon♪
pon♪pon♪
・・・・・pon♪
コピーを済ませ、会話が終わっている二人の間の席に座る。
先に口を開いたのは、私のスマホを見つめる成宮くんだった。
「めっちゃ通知音うるさいよ」
「えっご、ごめん。切るね」
「なんか急ぎの件じゃねえの?見たら?」
「いいの大丈夫、ごめん」
「・・・・」
やっぱり、電源なんかつけてしまえば佐倉さんのことが気になってしまう。
佐倉さん自身のアカウントの通知をオフにしなければならない。
急いで設定を押し、通知をオンからオフにする。
が、見えてしまう。
文章の一語一句が。
『今日会えないかな』
「なあ」
息が荒くなる。
落ち着かないと。
でも、もう誰にも頼れない。
「なあ」
私の悪い部分がでてしまう。
人を利用するなんて、もうしてはいけない。
いくら柔道一家でも護身術を習っていたとしても、怖いものは怖い。
だけど・・・・
「くらげって!」
ハッとする。
横から心配そうな表情の成宮くんと目が合う。
「気分悪いの?」
「い、いやあ、別になんとも」
pon♪
「イヤッ!!!!!!」
スマホを勢いよく床に落としたことで、隣の柏木さんも驚いて席を立つ。