この恋、最後にします。
「顔色悪いですよ神子谷さん・・・」
「ごっごめんなさい、大丈夫です何でもないです」
幸いにも事務所には私と成宮くん柏木さんと、派遣社員が3名ほどでさほど大事にはならないと思う。
だけど私の胸騒ぎは変わらずだった。
「原因はこれ?」
成宮くんが落ちたスマホを拾う。
「ほんとごめん、ちょっと動揺しただけ」
笑ってごまかし、成宮くんの手からスマホを受け取る。
助けてほしい。
だけど、説明なんかしたら成宮くんはきっと私を拒絶するだろうし、柏木さんもあんな人にアドバイスもらったなんて思いたくないだろうな。
「くらげ立って」
「だからその呼び方だめだってば」
「助けてやるよ」
「なんのこと?」
さっきの状況を作った張本人がとぼけているこの状況が心底おかしい。
「とぼけんなって、くらげ」
朝のこの時点で、成宮くんが私の名前をどれだけ呼んだのか分からない。
でも、ずっとそのまま呼んでいてほしいと思ってしまうの傲慢なんだろか。
「もう来てこっち」
何回も呼ばれるたびに周りから視線をもらい、しびれを切らした私は、成宮くんの腕を掴み事務所から出る。
何をしているのだろうと思うけれど、体が勝手に動いていたためか脳が追い付かない。
鳴りやまないスマホを手に持つ。
会社の外に出るまでに、多くの社員とすれ違ったが私は挨拶もせずに下を向いて進む。
その間、成宮くんは一言を発しなかった。
ピタリと足が止まる。
夏の風が私の髪をなびかせ、蝉も合唱し始める。
「やっぱなんかあったんだろ?」
背後からする成宮くんの声に、甘えてしまいそうになる。
年下の男の子に甘えたいと思ってしまうなんて。
「呼んでくれないの?」
「え?」
「呼んでよ早く」
掴んでいた腕を離すことなく、キュッと力を込めてしまう。
成宮くんは数秒の沈黙の後、片方の手で成宮くんの腕を掴んでいる私の手を握る。
「・・・くらげ」
先ほどとは違う、優し気な声で呼ばれたからか、かなり参ってしまいそうになる。
まだ、顔を見ることができない。
きっと私の顔が真っ赤になっているはずだ。
「か、会社の外だから・・・呼んでいいよって言いたかった」
「なんだよそれ・・・」