この恋、最後にします。




そういえば、最近近所にパン屋さんができたってチラシをもらったんだ・・・。



覗いてみようかな。



うちの会社の食器で食べたら尚、美味しくなりそう。



そんな妄想をしながら、私は歩く速さをほんの少し早めた。



パン屋の小さな看板をすぐさま目にし、案内通りの道へ進む。




目の前からキャハハと笑う集団にも屈せず・・・というのは嘘で、私は帽子を深くかぶり、通り過ぎるのだ。




通り過ぎたはずだが、私は足と止め、その集団を見るために振り返る。




「もーだから言ったじゃん!」「いっつもお前はなにしてんの」「わりぃわりぃ」



声が聞こえる。



私は成宮くんの声が聞こえ、瞬時に振り返ってしまったのだ。




帽子を少し上にあげ、先ほどの集団をまじまじと見つめる。




やっぱりそうだ。




ツートーンカラーの髪色に、襟足が少し伸びているセンターパートの髪型。



そうだ。



まさか。



こんな風に出くわしてしまうなんて、世間は本当に狭いものだ。




幸い成宮くんは気づいていなかった。




ただ、私は心がやけに痛く感じていた。




恋愛は向いていなくとも、この感情は少しわかる。



微かに聞こえる可愛い女の子の声に耳を澄ましてしまう。



「雪ってば、ほんとに犬みたいね」



雪。確か、成宮くんの下の名前って雪だったか。



私は、声をかけることもできずに、成宮くんの隣にいた女の子の残像が頭の中にへばりついてまま離れないことに嫌気がさす。




可愛かった。



大学のお友達なのだろうか。



ふんわりとしたボブの髪に、短いスカート、普通サイズなのに大きく見えるバッグ。



比べるのはおかしいが、柏木さんとはまた違った系統の可愛さを見せつけられた気分だ。




考えても仕方がないと、前を向いた時には、すでに目的地のパン屋さんに到着していた。




 
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