この恋、最後にします。
パン屋の角、看板の立つあたりに大きく手を振る成宮くんがいた。
「だめ、だめだめだめだめよ来ないでお願い」
「ダメとかなし、じゃあ来て」
「無理私今成宮くんに会えない」
「なぜ?」
「すすすすっぴんだし、いつものビジュアルじゃないというか、まあ普段からお見せできるような顔面持ち合わせてないんですけど今日は本当に無理かもです・・・」
息ができないほど言葉がでてくる。
「焦りすぎ、分かったじゃあ待つ」
「待つってなに・・・」
「俺は別にくらげといたいだけだからすっぴんとか言われても気にしないけど、くらげの嫌がることはしないって決めてんだ」
「ん、あ、うん、まあお化粧する時間設けてくれるんだってんなら、やってやろうじゃないの」
「なにそれ、戦うの」
電話越しから伝わる笑い声。
私がすっぴん姿を見せたくないといったから安易に近寄ろうとしない成宮くん。
これが20歳の沼というわけか・・・。
「じゃあ切るね」
「俺ら待ってるよ、ちゃーんと」
「俺ら?」
「ん、ああ、こいつらもいるけど気にするな。着いていきたいって言うから仕方なく」
「はあい!?」
「っくりした~、大声出るね」
成宮くんはいつも急なのだ。
私は何回、成宮くんのフラットな生き方に驚かされることでしょう。
看板の影からでてきたのは、間違いなく先ほど成宮くんと共に歩いていた集団であった。
もちろん、あの可愛い女の子もいて、こちらを見つめている。
妙に引っかかるのは、皆私を見て歓迎するように手を振っているが、その子だけはこちらを睨みつけているようにも見える。
「うそでしょ~聞いてないってば~」
力のない声しかでないし、苦笑いである。
「楽しませるからさ、お願い」
でも、成宮くんと一緒にいれる時間が作れるのであれば、メリットしかない。
このチャンス、恋愛向いていない人生から脱却できるかもしれない。
私はそう信じ「分かった、じゃあ待ってて」と言い、電話を切る。
向こう側にいる成宮くん率いる5人ほどの仲間に会釈をし、家に向かって走り出す。