この恋、最後にします。




家に帰ると私は、何かに取り憑かれたかのようにカバンからスマホを取り出す。




冷静な表情だったと思う。



だけど、手は震えていたし、心臓もうるさかった。




暗い部屋に、明るく光るスマホの画面。



成宮雪という文字に指がたどり着く。



目を瞑る。



大丈夫、思い出さない。



本当は好きだった。



ずっと好きだった。



愛したかった。



初めての感情を経験してもらった。



だけど、今なら大丈夫。



成宮くんのこと、成宮くんへの想い、もうすでに消えかかっている。



男性は、会わなければ会わないほど、好意がある相手への好きが増していく。




だけど、女性は、会わなければ冷めていくんだよ。




今だ、今しかない。



これでもう終わりだ。



恋もしないし、好きな人なんか作らない。



あれが最後の恋だった。



自分に自信もないなら、先に進むことなんかできない。



幸せな恋なんてないのに、自信もないならなにをしても無駄なのだ。



結婚がすべてではないと、悟ってしまった今、もうどうすることもできない。



できることとすれば、諦めるという選択肢を選ぶことだ。




スーッと息を吐き、《削除》という文字を押した。



これでもう、本当にさようならだ。



探さない。



この気持ちも全部、探さない。




成宮くんに恋をしていた、神子谷海月はもういない。




 
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