この恋、最後にします。
距離の縮め方
なぜ、私は今ここにいるのだろうか。
片手にビール、横には課長の日本酒。
いつから私は課長の日本酒を注ぐ人間になってしまったのだろうか。
ニコニコしながら思ってもいないような言葉と表情で課長のご機嫌を伺うように。
「神子谷さん!」
顔を上げると、柏木さんが目を丸くさせ、ほらほらと手招きする。
手招きといっても、こっちにおいでというわけでもなく「課長の日本酒がないよ」という合図であった。
「あっすいません課長」
「いいっていいって、ほら、僕パワハラとかしない人間ですから」
などといい、大きな声で笑う。
周囲の派遣社員も正社員も笑って見せた。
成宮くんはというと、細野主任の横にちょこんと座っていた。
皆が気を遣い、本日の主役の席に案内してくれたらしい。
噂だと、細野主任のご意向なんだとか。
私は、成宮くんのちょっと居心地悪そうな表情を見て少し気持ちが和んだ。
「あ」
しまった。
見すぎてしまっていた。
ふいにこちらを見た成宮くんと目が合ってしまった。
急に目が合ってしまったから、分かりやすく目を逸らしてしまう。
「あれ、神子谷ちゃんビールすすんでないじゃないか。
俺が横だとお酒もすすまないってか!」
課長はすでに出来上がっていた。
セクハラ・パワハラ・モラハラなどといった世間が厳しくなった社会にも課長は屈しないようだ。
「大丈夫ですよ、飲んでますので」
「え~~?大丈夫って日本語変じゃな~い?
今の若者は日本語がなってない・・・って神子谷ちゃんはもうおばさんか~!」
なおさらやばいぞ~といい、周囲も相変わらず笑う。