この恋、最後にします。
「ねえ~!ほんっとにここでよかったのぉ?」
目の前で熊井さんが大きいジョッキを手に取りながら、大きな瞳で私を見つめるのだ。
シラフの状態で会っているつもりだが、熊井さんはいつも上機嫌なんだとか。
会う前に柏木さんが取扱説明書なみに教えてくれた。
「熊井さんにまたこうして会えてうれしいです。私、お店に顔出せるような人間ではないので」
「なーに言ってるのこの子は。普通に顔出しゃいいじゃないのよ。ねえ」
「いえ、そんな」
「謙虚よね、最近若い子はなんでもさ・・・私なんか今年で50よ、50。10年なんかしたらすーぐ還暦になるってのに」
「え!?50なんですか?熊井さんもっとお若いかと・・・」
私と同様、柏木さんも驚いた顔をしてみせる。
「そりゃ、若い子に負けてらんないわよ。綺麗でいたい、それなりの努力はしなきゃよね」
私たち20代の肌と同じ艶に、髪の綺麗さ、手先の美しさ、全てにおいて熊井さんは努力を惜しまない。
私は、つい熊井さんに見入ってしまうのだ。
「いい?人生はあっという間なの。そんで、人生は一回きり。この先、生まれ変わりなんかない。
そんなもの存在しない、人間じゃなくて動物に生まれ変わるってのもない。
人生はたった、たった一度切りなのに、謙虚になってどうすんの?めーちゃくちゃ勿体ない人生歩んでることになっちゃうわよ。
まあ、虫にでもなりたきゃせいぜい良いことしまくりの人生歩まなきゃね。人間に生まれ変わるってのは、できないわよ。
そんな甘く作られていないわよ。
この世界、見れるのは今しかないのよ・・・大胆に生き抜いてみなさいよ」
「熊井さん・・・」
「ちょっとあなた見てるとなんだか熱くなっちゃうわね」
全て言い終わると、熊井さんは「ビール!!」と店員に向かって大きく手を挙げた。
その姿を見て、私は思う。
自信ないな私、と。