この恋、最後にします。
「一番ダメなのは、自分自身を否定することよ」
先ほどまでビール一直線だった熊井さんが飲むのをやめ、私の目を見る。
こう近くで見つめられると、悟られてしまいそうになる。
熊井さんのオーラはすごいものだった。
働いているときの穏やかな熊井さんではなく、なんだか力強くかっこいい女性像そのものだった。
ピアスが揺れ、熊井さんは髪をかき上げる。
「神子谷ちゃん」
「・・・はい」
「幸せなの?」
「え?」
「柏木ちゃんから聞いたわ。社員になる座を柏木ちゃんに譲ったんですってね」
「いやそれh「分かってる。分かってるわ。柏木ちゃん自身の実力もあって今こうして働いてることは私にだって理解できる」
「そうです」
「だとしたら、神子谷ちゃんの実力はどこに向かえばいいの?」
「それは・・・」
「さっきも言ったけど、人生一度しかない。そんな謙虚な生き方してたら、死んだとき未練たらたらで何かに取り憑いてこの世を彷徨い続ける悲しい幽霊にでもなるかもね。だって今でさえ、自分自身を持っていない悲しい人にしか見えない」
熊井さんは、まだおつまみさえも注文していないテーブルの上に一枚の資料を置く。
「これって、ねえ、これ神子谷さん、これ!!」
柏木さんは大きな真ん丸の目をさらに大きくして私の肩を揺らす。
「嫌な言い方してごめんなさいね。
そうしないと、神子谷ちゃんこれ、諦めると思ったから」
「これ・・・・」
手に取る。
一枚の紙には【社員登用試験のご案内】と記載されていた。
「神子谷ちゃんのとこの課長に話してみたのよ。
ここだけの話、課長さんね、あなたが5年目になったらこの話をする気でいたんだって」
「え?」
「でも言ってやった。このままじゃ優秀な派遣社員さんも逃げちゃうわよって」