この恋、最後にします。





笑い声が小さくなり、私たちは沈黙の中、駅方面に向かって歩く、歩く。




カツカツと革靴の細野主任の足音がなぜだか心地がいい。




男の人と、2人きりなんて、もはや避けたい場面であるのに心許してしまっている自分がいて焦る。




傷つくことから逃げている私にとって、矛盾している行動だ。




「ごめん、しつこいって言われると思うんだけど、今度は二人で飲みたいっていうか」




職場では冷徹で焦った顔なんて見せたことがない細野主任が、今は見たことがないくらい余裕のない表情をしていたためか、私は見入ってしまう。




主任って、私の時だけ表情緩くなるよな、なんて思ったりする・・・。





「どうでしょうか・・・気分によりますね」



「そっか」



分かりやすい反応の細野主任に私は笑ってしまうのだ。




「冗談です、すみません。意地悪しちゃいましたね」




「悪趣味だな」



「いいですよ、でも、2人きりはまたいつか。柏木さんや熊井さんとも一緒でいいですか?」



「・・・ああ」




風が吹くと同時に細野主任と目が合う。




「・・・なにか?」



細野主任が私を見つめるから、私は微笑むのさえ忘れて咄嗟に目を逸らす。




「よかった。やっと笑った」




「え・・・あ、ああ」




甘い声で話すものだから、見入ってしまうのを避けるように、私は髪を耳にかけ落ち着かせる。




もう私には勿体ない感情だから、こんなこと思いたくない。



でも、鈍感でない私には少しわかるの。



細野主任が私に対してどんな感情をもっているのかなんて。



分かっていて、2人きりでいる時間を設けてしまっている時点で私は本当に最低だ。



ああ、どうしようもなく自分が嫌な人間で、どうしようもなく可哀想で情けない。



多分私は寂しがりやで可哀想な子だから誰かに好いてもらえることで安心感を得ている。



変わることのない、自分の悪い癖。



ああ、最低だ。




横で歩いていた細野主任が見当たらない。



後ろを振り向くと、細野主任は私ではなく違う方向を見ていた。



「主任?」




「なあ、あそこにいるの成宮か?」




「え?」




 
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