この恋、最後にします。
細野主任の見つめる先を見る。
見てしまう。
忘れていたはずの感情が一気に押し寄せる感覚。
どんなに忘れようと思っても、悲しい気持ちも、会えば一瞬であの時のままになる。
そんなのダメだ。
会いたくないし、
会いたいし、
嫌だし、
嫌じゃない。
こんな曖昧の気持ち、自分自身に覚悟がないなら、絶対に思ってはいけないのに。
駅近くで人だかりが多い空間で私の瞳は、ただ一人を探してしまっている。
ダメだと思っているのに。
もう、自分から恋なんてしないって決めてるのに。
初めてなの、こんなに人に対して特別な感情を持つのは。
ただ、成宮くんが年下で自分と真反対の性格だってだけなのに。
これが、依存ってやつなのか。
「ごめん成宮に似てる人だったわ。どこいんだろうなあいつ無断しやがって」
笑って駆け寄る細野主任につられて私も笑えているつもりだった。
なのに、主任は「どうしてそんな泣いてんだよ」と言った。
その言葉を私は聞こえないふりして人だかりの少ない方向へ勝手に歩き出す。
「おい!!」
呼び止める細野主任の足音は近いままだった。
歩き続ける。
どこまでもいきたかった。
成宮くんがいるこの街も、成宮くんに似ている人がいるこの街も、どんどん抜けて、どこまでも遠くに行きたかった。
ほんと参っちゃうよな。
自分の気持ちに蓋なんかする方法を知らなかったら良かったのかな。
そしたら今この場面にも成宮くんが傍にいて、「くらげ」って呼んでくれていたのかな。
「いい加減とまりなって」
ハッとし振り返る。
私の腕をとる細野主任は真っすぐに私を見つめていた。