この恋、最後にします。




「顔が硬いな、もっと気楽にな。
ちなみに俺は、派遣でも正社員でも神子谷と働けてるだけで嬉しいよ」




真っすぐな言葉。



成宮くんと一緒で、やっぱり思い出してしまって。



もう、嫌。




「ねえもうすぐ花火大会あるよ」「えっやばい彼氏に浴衣ねって言われてんだった」「やばいじゃん早く決めなよ!」と微かに聞こえた会話に、私たちは確かに聞こえて、互いによそよそしくなる。



さすがに誘わないよね・・・と、失礼ながらにそう思う。



チラッと細野主任を見ると、いつものように澄ました顔で「花火大会なんて何年も行っていない」とだけ言ってコーヒーに手を付けた。




普通に幸せになりたい。



ただそれが私の夢であったのは間違いない。



今幸せじゃないのかと言われればそんなことないと思うし、このままでいいと思う。



でも、このまま、主任に好かれて、それを知らないふりするのは違うと思う。



なのに、居心地がいい方を選んでしまう。



誰が私を叱ってくれるのか。



もうわからない。



有給でも使って何年も帰っていない実家にでも行ってみようか。



親であれば、多少は叱ってくれるかもしれない。



そんなことまで考えてしまう。




「ほんとに神子谷、大丈夫か?顔色悪いけど」



「え?」



「もう今日は家に帰ろう、送るから」



「だ、大丈夫ですここで解散で」



「そこまで否定されると逆に嫌だな、絶対送る」



「ええ?」



こんなにも強引になるとはつゆ知らず、私は誤魔化すことも忘れる。



「いいか神子谷、俺はお前の上司だ。それだけだ」



「は・・・はい?」



「お前の嫌がることもしないし、怖がらせない。だから送る。上司として心配だから送るだけだから」



「・・・・・じゃあお言葉に甘えて」



なんて言ってしまって。




 
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