幽霊の国の狼娘/※耽美風ゴシック?中編+短編



 夜が明けて、敷地を一瞥すれば気づくはず。


 この神殿が、本来は要塞であり、巫女たちの宿舎は砦なのだと。


 だから地下に「蠍の柩」が安置されるこの施設が、人の住む領域の端の「境界」の場所に位置しているのは偶然ではない。


 まだ地球の四分の三は、歴史以前の昏迷の闇に沈んでいるのだから。


 この理神論的な新世界で、精緻を極めた魔法的機械論の設計図は完璧ではなかった。


 おそらくは第二の創世の、ごくごく最初の段階から潜在的な「歪み」と漸次の修復を必要とする「欠陥」を孕み、さらには「悪意」さえもが混入していたのだ。


 それでも人間は生まれる世界を選べない。


 人にとって完璧な理想郷など、きっと何処にもないんだろう。


 おおよそ、完全・不完全などという差異は、しょせんは主観による判断でしかないのだ。


 だからこそ、たしかに世界そのものにとっての存在とは時間と空間のことなのかもしれない。しかし個々の人間にとって「存在する」とは時間性云々ではなく、不可思議に背負う「宿業」のことなのである。


 運命の糸からは、人間はおろか神々でさえも逃れられぬ。


 ましてや「人工の神々」でしかない「貴族種族」たちには。


 彼らは最初から呪われている。


 それならば庇護者である平民種の人間たちによる付き添いを、本当の意味で必要とするのは、むしろ貴族種族である守護者たちの方なのかもしれなかった。



 支えあい、寄り添いあって生きる「人」と「獣たち」の新しい文明は、まだ揺籃の時期を漂っているのだ。【了】
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