【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 彼の手が伸び、彼女の頬に触れる。ねっとりとした視線を受けて、アナベルは鳥肌を立てた。

「ふぅむ。確かに……うむ、これならば金貨十枚……いや、二十枚でどうだ?」

 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべそう提案するジョエルに、両親は唖然としている。

「……なにを、おっしゃられているのか……理解できません……」
「だから、この少女の値段だ。金貨が二十枚もあれば、家族四人、余裕で暮らせるであろう? この田舎ではな!」

 ハハハ! と豪快に笑う声が響いた。

「――断れば、この村がどうなるか……わかっているだろう?」

 低い声でジョエルがアナベルを見つめながら、ニヤリと口角を上げる。ジョエルは彼女から手を離し、

「二週間後、その少女を引き取るために騎士を送ろう。その子はこの私の花嫁にしてやるのだから、感謝するんだな」

 そう言い残してジョエルと騎士たちは去っていった。

 アナベルは口をパクパクと動かして、それからくるりと振り返り、母に抱きつく。

「――どうして、こんなことに……!」

 母の震える声を聞いて、アナベルは必死に抱きつく力を強める。

 ――アナベルが領主の花嫁になるという話は、あっという間に広がった。小さな村なので、広まるのも早い。

 村人たちは気の毒そうにアナベルを見て、「元気を出して」と声をかける人、気まずそうに視線をそらす人、様々な反応を見せた。


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