【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 ――どのくらい、時間が経っただろうか。

 ふと、エルヴィスが顔を窓に向ける。

「……どうしたの?」
「いや、これは……」

 襲撃か、とアナベルも警戒するように窓の外を見る。すると――馬に乗っている人が、ひらひらと手を振っているのが視界に入った。

(――あ、陛下の護衛の……)

 ホッとしたように息を吐く。そして、彼に見えるように振り返した。

「護衛と一緒だったのね」
「パトリックは私のほう、レナルドは別の場所の様子を見にいっている。すべて手筈通りだ」

 満足げにうなずくエルヴィスに、アナベルは眉を下げる。

 それに気付いたエルヴィスが「どうした?」と首をかしげた。

 アナベルは緩やかに左右に首を振り、頬をかいて微笑む。

「なんでもないの。安心しちゃって……やっぱり少し、怖かったから」

 踊っていたときの高揚感は、馬車に揺られているうちにしぼんでいった。

 だからこそ、アナベルは心底安堵したのだ。どうやら襲撃の危険はないようだ、と。

「旅芸人の一座で各地を巡っていたけれど、魔物や盗賊……山賊? ってあまり遭遇しなかったから、戦い慣れていないのよね……」
「……そうか。それは、こちらの配慮(はいりょ)が足りなかったな」

 アナベルはあわあわとエルヴィスの手を握り、彼と視線を合わせた。

「……そんなことないわ」

 そう口にしたと同時に、馬車が止まる。

 どうやら目的地についたらしい。
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