【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 香油の入った小瓶を取り出し、蓋を開けてアナベルに差し出す。彼女は手で扇ぐように匂いを確認し、ぱぁっと表情を明るくした。

「すごくいい香りね! でも、これをあたしに使っていいの?」
「もちろんでございます。ぜひ、使わせてください」

 メイドたちのキラキラと輝いている目を見て、アナベルはふっと表情を(ほころ)ばせて小さくうなずいた。

 香油の小瓶をメイドに返し、アナベルの髪に使ってもらう。ふわりと鼻腔をくすぐるバラの香りに包まれて、彼女はうっとりと目を閉じる。

 そのあいだにアナベルの髪はハーフアップに結われ、ヘアアクセサリーで飾り付けられた。

「出来ました! さあ、食堂までご案内いたします」

 一仕事を終えたメイドが、額に滲んだ汗を拭いて、待っていたメイドたちに声をかける。

 椅子から立ち上がり、メイドたちに案内されて食堂まで足を進めた。

「……あの、本当にこの格好で大丈夫?」

 普段着慣れないドレスに戸惑いながら、メイドたちに(たず)ねる。

 着こなしている感じはまったくしない。ドレスに着られている……ような気がして、メイドたちの反応を見た。

「はい。とてもお美しいです」

 メイドの一人がきっぱりと言い切った。周りのメイドたちもうなずいているのを見て、アナベルはホッと息を吐く。

 食堂の扉が開かれて、すでに席についていたエルヴィスとロマーヌを見て、アナベルは「お、お待たせしました……」と食堂に足を踏み入れた。
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